医学・医療最前線

内科的治療で体重をコントロールできない高度肥満者への減量手術( 2010/12/28 )

 日本人は、欧米人に比べて極端な肥満者は少ないといわれていますが、食生活の変化などにより肥満者が増加しています。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、女性の肥満者は減っているものの、男性ではどの世代においても肥満者の割合が増えており、特に40〜60代では30%を超えています。また、日本人には内臓脂肪型肥満が多く、BMI(Body Mass Index:身長からみた体重の割合を示す体格指数)が比較的低くても糖尿病や高血圧、脂質代謝異常、肝機能障害、高尿酸血症、睡眠時無呼吸症候群、月経異常など、肥満に起因した健康障害を起こしやすいことが大きな問題になっています。今回は、その肥満症に対して行われている先進医療を紹介しましょう。

  図1●日本で行われている減量手術


図1●日本で行われている減量手術

日本で行われている減量手術の半数近くが、先進医療にも認定されている「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」。10年12月現在、認定されている施設は2カ所だが、自由診療でも手掛けている施設がある

 肥満に伴う健康障害が増えれば増えるほど、脳卒中や心臓病などの重篤な病気にかかる危険性が高くなり、余命を縮めるおそれがあることから、肥満者に対しては薬物療法や食事療法、運動療法といった治療が行われてきました。しかし、肥満には生活習慣が深く関与しているため、内科的治療では体重のコントロールができない高度肥満症の患者も大勢います。

 そこで、日本でも2006年頃から高度肥満症に対する治療法が見直され、内視鏡下による外科的治療が行われるようになりました。このうち「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」は先進医療として承認されており、岩手医科大学附属病院と大分大学医学部附属病院で受けることができます(10年12月現在)。今回紹介する岩手医科大学附属病院は、10年4月に先進医療に認定されました。



日本で最も多く行われている減量手術の「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」

 内視鏡下による減量手術とは、腹部に数か所の小さな穴(5〜15mm)を開け、その穴から「腹腔鏡」と呼ばれる内視鏡や鉗子(かんし)、電気メスなどの手術器具をお腹の中に入れて手術をする方法です。腹部を大きく切開する従来の開腹手術に比べ、傷口が小さいので、患者の身体的な負担が少なく、術後の回復が早いのが利点です。現在、米国を中心に世界で行われている34万件の減量手術のうち、実に92%が内視鏡下によるもので、減量手術の主流となっています。

表1●腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の短期成績
表1●腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の短期成績

岩手医科大学附属病院で「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」を受けた患者は、術前が平均体重147kg、平均BMI48.4だったところ、術後1年で平均減少体重が43kg、平均BMIが29と大きく改善し、肥満に伴う疾患もほぼ治癒したという

 日本で実施されている内視鏡下による減量手術の内訳は図1の通りで、最も多いのが「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」です。これは、胃の外側の部分を80%程度切除し、3、4口(約100cc)も食べればお腹がいっぱいになるように胃の容量を小さくする手術です。手術時間は3時間半から4時間程度で、全身麻酔によって行われます。

 「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」の減量効果は高く、この手術に08年から取り組んでいる岩手医科大学附属病院はこれまでに8例の実績があり、短期成績は表1の通りです。同大学医学部外科学講座の佐々木章准教授によると、20〜30kg減量できた時点で肥満に伴う健康障害はほぼ改善できるそうです。

 

 現在、日本では減量手術の適応に関して、(1)BMIが35以上である(2)肥満に伴う健康障害が重篤である(3)内科的な治療法が無効である——という3つの条件が定められています。ただし、新しい治療法であるため、推奨される術法はなく、各施設の判断によって術法を選択しているのが現状です。

  図2●岩手医科大学附属病院における腹腔鏡下減量手術


図2●岩手医科大学附属病院における腹腔鏡下減量手術

「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」では、切除した胃は元に戻すことができないため、BMIが40以上の高度肥満症に行っている

 岩手医科大学附属病院の場合、胃を切り取る「スリーブ状胃切除術」は元の状態に戻すことができないため、BMI40以上の肥満者に適応しています。BMI35以上40未満の肥満者には、胃の上部に食べる量を調節できるバンドを取り付ける「調節性胃バンディング術」を行い、胃を残す方法を選んでいます。この術法による同大学附属病院の実績は08年以降で2例あります。

 いずれの術法であっても減量手術の難易度は高いといわれています。内臓脂肪が多い患者のお腹の中は内視鏡で見にくいうえに、動脈硬化が進んでいる血管は少し傷をつけただけでも出血しやすいため、通常の手術よりも難しいのです。

 

減量手術の位置付けは「補助」、主体の治療は手術後の食事と運動

 手術時のリスクとして心臓や肺、腎臓の状態が全身麻酔に耐えられるかということも検討しなければなりませんが、肥満者の場合は麻酔剤が脂肪に蓄積するので覚めにくいため、投与量にも十分に注意する必要があります。また、手術台に横になると脂肪の重みで肺が潰れてしまうことがあり、術後に肺の合併症を起こしやすいことも挙げられます。

 さらに通常、術後は肺塞栓症(下肢の深部にある静脈血栓が剥がれて肺動脈に流れ込み、肺動脈が閉塞する疾患)を予防するため、血液をさらさらにする抗凝固療法が行われます。もともと出血しやすい傾向にある肥満者は、この治療を行うことによって術後出血などを起こすおそれもあり、治療のバランスを取るのが非常に難しいといわれています。このように肥満者の手術にはさまざまな危険性が伴うため、術前の身体的評価がしっかり行われます。

 減量手術の目的は美容を目的とするものではなく、体重を減らし、肥満に伴う健康障害を治療することです。したがって減量手術の位置付けは「補助的な治療」であり、主体の治療は手術後の食事療法や運動療法、行動療法になります。

 岩手医科大学附属病院では手術日が確定すると、術前3週間前から7〜10kg減を目標に、患者に減量を始めてもらいます。術前1週間前には入院し、さらに3〜5kg減を目指す厳格な食事療法に臨み、手術直前には元の体重の10〜15kg減となるようにします。術前の減量は肥大した脂肪肝の容量を減少させ、手術のリスクを低下させるのが目的ですが、術後の行動療法などが可能かどうかの判断をするという目的もあります。この期間に目標値の減量ができなかった場合は、術後の行動療法などが難しいと判断し、手術は中止とします。

ほとんどの患者は術後1年で減量に成功し、肥満に伴う健康障害も改善

 手術後は合併症がなければ約1週間で退院できますが、通常の食事を摂れるようになるのは約1カ月後です。術後2日目から流動食を開始、2週間後に半固形食、1カ月後に普通食と段階的に戻していきます。

 さらに、ここから食事や運動療法の指導、行動療法による減量が始まりますので、1カ月に1回定期的に受診し、医師による減量や肥満に伴う健康障害の状態の確認、管理栄養士による栄養指導などが行われます。減量が順調に進めば3カ月に1回、6カ月に1回と定期受診の間隔が長くなり、ほとんどの患者は術後1年も経過すれば減量が落ち着き、肥満に伴う健康障害も改善されるため、それ以降の定期受診は1年に1回となります。

 なお、岩手医科大学附属病院で腹腔鏡下スリーブ胃切除術を受けた場合、手術費用は34万4000円です。入院費用などは保険診療となるため、自己負担の合計額は50万〜60万円になります。ちなみに、調節性胃バンディング術は胃に取り付けるバンドが薬事未承認器具であるため、全額自費診療となり、自己負担額は約100万円です。

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