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気になる医療・トクする情報(7)
メディカルツーリズム:海外編
自由診療分野では国内よりも安価に

医療ライター
渡辺千鶴

( 2010/11/30 )

医療を「産業」と位置づけたタイなど東南アジアで発展

 最近、テレビのニュースなどで「メディカルツーリズム」という言葉を、よく耳にします。日本語では「医療観光」と訳され、主に治療目的で外国の病院に出かけることを意味しています。病状によっては、治療だけでなく、出かけたついでに観光を楽しむこともあります。

バンコク病院


サミティヴェート病院

バンコク病院(写真上)、サミティヴェート病院(写真下)など、メディカルツーリスト向けの主要病院は、いずれも一流ホテルのような空間が広がる

 メディカルツーリズムは、医療を「産業」の一つと捉え、外国人に対して医療サービスを積極的に提供してきたタイやシンガポールなど東南アジアで発展してきました。近年では、インドや韓国でも外国人患者を誘致する方針を打ち出しており、国を挙げてメディカルツーリズムに取り組んでいます。

 今やこれらの国には、「質のよい医療」、「低コストの医療」、「すぐに治療できる医療」を求めて、アジアや中近東だけでなく欧米など、世界中の患者がやってくるようになりました。

 豊かな観光資源に恵まれ、株式会社による病院経営が認められているタイでは、30年以上前からメディカルツーリズムを行ってきました。首都バンコクには、1972年に設立されたバンコク病院をはじめ、バムルンラート病院、サミティヴェート病院などメディカルツーリスト向けの主要病院があります。

 これらの病院では、英語はもちろん、アラビア語、中国語といった多言語のサービスデスクをそろえ、多くの外国人患者を受け入れています。もちろん、日本語のサービスデスクもあります。たとえば、バンコク病院の中にある「ジャパン・メディカル・サービス(JMS/日本人専門クリニック)」では、日本語通訳担当者が24時間年中無休で日本語サービスを提供しています。



メディカルツーリスト向けの病院には日本語のサービスデスクも

バンコク病院


JMS外来診察室

バンコク病院(写真上)に設置されているJMS外来診察室(写真下)。診察台には使い捨ての紙シーツがセットされ、感染対策にも配慮する

 そして一流のホテルのように、アメニティが行き届いた空間の中で、日本の大学の医学部を卒業したタイ人医師と日本人医師、さらに日本人看護師など総勢20名以上のスタッフが診療に当たっているのです。

 また、設備もCTやMRI、PETなどの高性能検査機器をはじめ、IMRTやガンマナイフといった放射線治療機器、手術支援ロボットなどが導入され、医療水準は、日本や欧米とさほど変わりはありません。

 しかし、メディカルツーリスト向けの病院とはいえ、利用している日本人患者の大半は、日本企業の現地駐在員とその家族、あるいは急病やケガをした旅行者です。国民皆保険制度が整備され、医療水準が高い日本から、わざわざタイまで治療に訪れる日本人患者はほとんどいないのが現状です。

 一方、費用面からみれば、日本では自由診療となっているレーシック手術(近視レーザー治療)や歯科のインプラント治療、美容医療の分野では、日本よりも比較的安く治療を受けられるものもあります。中でも、ほかの自由診療の治療と比べて施術後のアフターケアがそれほど必要のない美容医療は、メディカルツーリズムを利用するのもひとつの選択肢かもしれません。

 各国のメディカルツーリズムに詳しい、多摩大学統合リスクマネジメント研究所・真野俊樹教授の著書『グローバル化する医療』によれば、韓国のソウル市内にあるアルムダウンナラ・ビューティークリニックでは、2008年に1000人もの日本人を施術したそうです。このクリニックでの施術は、日本の大手旅行代理店のツアーにも組み込まれるほどの人気ぶりで、日本人患者の数はさらに増加しているといいます。



日本人旅行者の利用が増える韓国やタイの美容クリニック

 タイのバンコク市内にも、日本の大学病院で皮膚科専門医としてトレーニングを受けた女性医師が開業しているメディカルスパ「S Medical Spa」があります。ここでは皮膚科医だけでなく精神科医や緩和ケア医、産婦人科医と連携しながら医学的アプローチのもと、美容や健康、アンチエイジングをテーマにさまざまな治療を提供しています。

「S Medical Spa」

「S Medical Spa」(写真)は、アジアに1台しかないハイドロセラピーバスを設置している。水圧マッサージやカラーテラピージャグジー、アロマバス、シロダーラオイルテラピーなど、さまざまな施術が受けられる

 例えば、日本人にも人気の高いコロンハイドロセラピー(腸内洗浄)は、医師によるコンサルテーション(診察)を受けた後、看護師が施術します。施術時間は60分で3000バーツ(約8200円)です。また、超音波とパックによる目元ケアは30分で1000バーツ(約2700円)、にきび対策ケアは60分で1800バーツ(約5000円)とお手頃です。

 ちなみに、シミやそばかすなどを消すためのレーザー治療は30分で8000バーツ(約2万1000円)、シワやたるんだ顔をリフトアップするレーザー治療は60分で1万2000バーツ(約3万3000円)となっており、日本と同額程度の料金が設定されています。

 「S Medical Spa」には、日本人スタッフや日本語を話せる医師がいるため、コミュニケーションも問題ありません。ここを利用する日本人は、タイで暮らす人だけでなく、約半数は旅行者だそうです。

 



 現在、日本人がメディカルツーリズムを目的に外国まで出かけるのは美容医療などごく限られた分野です。しかし、先進医療特約のように民間医療保険がメディカルツーリズムの費用をカバーするようになれば、どうでしょうか。「ドラッグ・ラグ」や「デバイス・ラグ」の問題(世界的には標準的に使われている医薬品や医療機器が、日本では承認が遅れて使えないという問題)を抱える日本において、海外で使われている医薬品や医療機器が使えずに困っている患者たちが、世界の標準治療を求めて外国に出かける時代になるかもしれません。

 次回は、日本ではメディカルツーリズムをどのように産業化し、外国人を呼び込もうとしているのかについてレポートします。

渡辺千鶴写真

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)

医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、フリーランスに。医療・看護・介護分野を中心に編集・執筆に携わる。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』『知っておきたい病気の値段のカラクリ』(共に宝島社刊)『がん—命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』で「希望をつなぐ先端医療」を連載中。

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