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気になる医療・トクする情報(17)
混合診療の仕組み②
混合診療の弊害を減らすために
適応外薬への対応を工夫

医療ライター
渡辺千鶴

( 2012/02/28 )

混合診療の弊害として新薬や新技術の恩恵を受けにくいことが問題に

 前回は、私たちが受けられる医療サービスには健康保険が適用される「保険診療」と健康保険が適用されない「保険外診療(自由診療)」があり、この2つの医療サービスを併用する「混合診療」は、原則禁止されていることをご紹介しました。

 混合診療の禁止は「誰もが必要かつ適切な医療サービスを受けられる」という国民皆保険制度の理念に基づいて実施されているものですが、新しい医療技術や新薬を利用する場合、保険診療の部分まで全額自己負担となり、それらの恩恵を受けにくいといった弊害が指摘されています。

 特に薬剤の分野では、欧米では使用が認められていても、我が国では未承認(日本での使用が認められていない)あるいは適応外(病気によっては使用が認められていない)となっていて薬が使えない――いわゆる「ドラッグラグ」が大きな問題になっています。そのため、がんの患者団体を中心に混合診療を認めるよう国に働きかけたり、裁判に訴える患者も出てきました。

 厚生労働省は、混合診療の弊害やドラッグラグの問題を少しでも解消するため、前号で紹介したように2006年10月から「保険外併用療養費制度」を開始しました。この制度の導入により「高度医療」および「治験」で使用される新薬、国内未承認薬、適応外薬は混合診療が可能になりました(表1)。薬剤費は患者の全額自己負担になりますが、保険診療に当たる部分の費用は1〜3割の自己負担で済みます。

薬事承認前に健康保険の適用となる適応外薬もある

  表1●医療保険制度の取り組み(2012年2月現在)


表1●医療保険制度の取り組み(2012年2月現在)

 また、適応外薬では公知申請(海外で標準的に使用されている薬剤の場合、科学的根拠が十分であると判断されれば、国内での臨床試験を省略して承認申請できる制度)を行ったものに関しても、保険外併用療養費制度の対象となります(表1)。

 さらに、厚生労働省は2010年10月に公知申請に新制度を創設し、薬事・食品衛生審議会の事前評価が終了した適応外薬は、薬事承認前でも健康保険の適用としました(表1)。ただし、この対象となる適応外薬は「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で公知申請が可能と判断されていることが条件になります。企業が独自に公知申請し、薬事・食品衛生審議会の事前評価が終了した適応外薬の場合は保険外併用療養費制度の対象となりますが、薬事承認されるまで健康保険の適用にはなりません。



 なお、独立行政法人医薬品医療機器総合機構のウェブサイトでは、薬事承認前でも健康保険の適用となる適応外薬の一覧を公開しています。


TPP参加で混合診療が全面解禁となり、国民皆保険制度が崩壊する!?

 一方、混合診療についての話題として記憶に新しいのは、昨秋、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉参加をめぐる議論の中で取り沙汰されたことでしょう。日本医師会をはじめTPP反対派の意見を総括すると、日本がTPPに参加した場合、医療・保険サービス業の自由化を目的に米国が混合診療の全面解禁を求めてくる可能性があることが指摘されています。

 米国の要求に応じて混合診療が全面解禁されると、製薬企業や医療機器メーカーは新薬や最新医療機器を自由診療に提供するようになり、患者によって受けられる医療内容に格差が生じ、国民皆保険制度が崩壊するという声があります。また、医療費の財源を考慮すれば、国は混合診療の全面解禁を理由に健康保険でカバーする範囲を狭めてくるのではないかという意見もあります。ただ、識者の中には医療・保険サービス業の自由化の約束により日本の医療制度そのものが変更されることは考えにくいとの見方を示す人もいます。

 いずれにせよ、医療制度や医療費にかかわることは、私たちの生活に多大な影響を与えるため、TPP交渉のゆくえは注意深く見守りたいものです。

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渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)

医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、フリーランスに。医療・看護・介護分野を中心に編集・執筆に携わる。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』『知っておきたい病気の値段のカラクリ』(共に宝島社刊)『がん—命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』で「希望をつなぐ先端医療」を連載中。

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