Health & Money

Health & Money タイトル画像

気になる医療・トクする情報(23)
国家戦略特区で日本の医療はどうなる?

医療ライター
渡辺千鶴

( 2013/12/25 )

国家戦略特区では世界トップクラスの「国際医療拠点」を目指す

 12月8日まで会期を延長し、審議が行われていた第185回臨時国会で国家戦略特区法案が成立しました。「国家戦略特区」とは、アベノミクスの第3の矢である日本再興戦略の要に位置づけられている政策で、「世界で一番ビジネスのしやすい環境をつくる」ことを目標に、限定された地域で規制緩和や優遇税制などが実行されることになっています。

 政府は今年5月、「国家戦略特区ワーキンググループ」を設置し、具体的な進め方を検討するとともに全国に政策案を募集しました。これまでに企業や自治体から200件近い提案が寄せられています。法案成立後は、安倍晋三首相を議長とする「国家戦略特区諮問会議」を設け、特区地域の選定作業が行われ、最終的には年明けに3~5カ所の地域が国家戦略特区に指定される予定です。

 この特区で規制緩和が検討されているのは、医療、雇用、教育、都市再生・まちづくり、農業、歴史的建築物の活用の6分野です。医療の分野では、国内外の優れた医師を集め、最高水準の医療を提供できる、世界トップクラスの「国際医療拠点」を作り、国内にいる外国人が安心して医療を受けられる環境を整備すると同時に、世界中の人がそこで医療を受けたいと望むような場所にすることが目標に掲げられました。

 そのための規制緩和として、(1)外国人医師、外国人看護師の業務解禁(2)病床の新設・増床の容認(3)保険外併用療養の拡充(4)医学部の新設に関する検討(表参照)の4項目が挙がってきました。これらの医療政策が実行されることによって、日本の医療はどのような影響を受けるのでしょうか。

保険外併用療法の拡充は日常診療において新たな選択肢を生む可能性も

 国家戦略特区の政策は、ある特定の地域に限定されるため、すぐさま日常診療に大きな影響を及ぼすことはないと考えられます。ただ、外国人医師や看護師の受け入れを促進する観点から、次期医療法改正では臨床修練制度を拡充することが予定されており、臨床修練施設に認定されている大学病院や地域の中核病院を受診すると、研修中の外国人医師や看護師による医療を受ける機会が増えるかもしれません。特に、これからはアジア地域からの外国人医師や看護師の受け入れが多くなってくるでしょう。

 また、保険外併用療養の拡充は私たちが日常診療を受ける上で、新たな選択肢を生むかもしれません。日本では新しい薬剤や医療機器が承認されるまでに欧米諸国よりも時間がかかり、海外では標準となっている治療が受けられないという問題があります。薬剤の承認に時間がかかって導入が遅れることを「ドラッグ・ラグ」といい、同様に医療機器の承認に時間がかかって導入が遅れることを「デバイス・ラグ」といいます。「ドラッグ・ラグ」に関しては、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」が設置されるなどの対策が進められ、新薬については以前よりも迅速に承認されるようになりました。

 しかし、適応外薬については、すでに承認されている薬がほかの疾患に有効だと分かっても、日本では疾患ごとに治験や、承認・審査の手続きを行わなければ使用が認められません。この手続きが遅れ、適応外薬では多くの薬剤が使用できない状況です。また、デバイス・ラグの承認についても状況はあまり改善されていません。

 国家戦略特区では、国内未承認の医薬品などの保険外併用の希望がある場合、速やかに評価を開始できる仕組みを構築することが検討されていますので、薬剤や医療機器の費用を全額自己負担すれば世界で標準的に行われている治療を受けることが可能になります。

 一方、医療界では、この規制緩和が混合診療の全面解禁への起爆剤の1つになることを懸念しています。日本医師会の横倉義武会長は9月25日の定例記者会見で「TPP交渉における日米2国間協議において米国は混合診療の全面解禁を求めないとされているが、今後、米国からの要求と国内の規制改革の動きが相まって保険外併用療養の拡大、混合診療の全面解禁への動きがより加速するおそれがある」と指摘しています。

 混合診療が全面解禁となった場合の問題点としては、(1)高額な医療費を支払える高所得者しか新しい治療を受けられなくなる(2)新しい治療や医薬品を公的医療保険に組み入れるインセンティブが働かなくなり、公的医療保険の給付範囲が相対的に縮小する(3)国として安全性、有効性に責任を負わない治療や医薬品が普及する(4)全額自己負担の医薬品は自由価格で提供できるので、製薬企業はあえて保険適用になることを希望せず、医薬品を自由価格のまま高止まりさせる可能性がある----などが示唆されています。

 いずれにせよ、世界トップクラスの国際医療拠点を目指す国家戦略特区の設置で、日本の医療のグローバル化がさらに進むことは間違いないと思われます。保険外併用療養の拡充についても、特区でどのような仕組みが構築されて、どのくらいのスピード感で世界標準の薬剤や医療機器が使えるようになるのか、患者負担はどのくらい増大するのか、近未来の保険医療制度の在り方に少なからず影響を与えるだけに、関心を持って見守っていきたいものです。

表 国家戦略特区・医療分野において検討すべき規制改革事項
国家戦略特区・医療分野において検討すべき規制改革事項

渡辺千鶴写真

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)

医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、フリーランスに。医療・看護・介護分野を中心に編集・執筆に携わる。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』『知っておきたい病気の値段のカラクリ』(共に宝島社刊)『がん—命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』で「ファミリードクターに教わる症状からわかる病気百科」を連載中。

新メディアスタート!

からだケアナビ

先進医療の技術内容や医療施設の検索は

先進医療ナビ

Health & Money

▲ PAGE TOP