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滋賀医科大学医学部附属病院(1)

樹状細胞ワクチン療法
免疫システムにおける“司令塔”を活用する

( 2010/07/30 )

 患者本人の免疫システムを利用する免疫療法は、外科手術、放射線治療、薬物療法に次ぐ、第4の治療法として注目されています。薬物療法に様々な種類の薬があるのと同様、免疫療法といっても様々な方法が試みられています。今回から2回にわたり、免疫療法の中でも効果が高い治療法として期待されている樹状細胞ワクチン療法を紹介します。

病院に寄付された滋賀県甲賀市信楽町の信楽焼。病院内のボランティアが季節に合わせた装飾を加え、中庭を和みの空間としている

病院に寄付された滋賀県甲賀市信楽町の信楽焼。病院内のボランティアが季節に合わせた装飾を加え、中庭を和みの空間としている

「ほかの治療法がない患者さんの4割でがんの増殖を抑えることができた意義は大きいのではないでしょうか」と寺本晃治助教授

「ほかの治療法がない患者さんの4割でがんの増殖を抑えることができた意義は大きいのではないでしょうか」と寺本晃治助教

 琵琶湖畔の緑豊かな丘陵地に位置する滋賀医科大学医学部附属病院(以下滋賀医大病院)。この病院では、患者自身の血液から分離・活性化した樹状細胞を用いたがん治療、「樹状細胞および腫瘍抗原ペプチドを用いたがんワクチン療法」が、2005年から先進医療として行われています。同大で対象としているのは、外科手術や薬物療法、放射線療法で効果が見られなかった肺がんもしくは乳がんです。

 実は、がんに対するワクチン療法として先進医療で認められている治療法がほかにもあります。例えば、本サイトで既に紹介した「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」も、免疫療法の一種です。この治療法では、患者自身のリンパ球(細胞傷害性T細胞)を体の外に取り出し、がん細胞を識別し攻撃するよう体外で活性化した後、再度、体内に戻します。このリンパ球は体外で“訓練を受けた兵士”のようなもので、自らががん細胞を攻撃します。

 一方、滋賀医大病院で行われている樹状細胞ワクチン療法では、免疫システムの中で“司令塔”と呼ばれる樹状細胞を用います。樹状細胞とは、兵士であるリンパ球に対して、どのような細胞を異物として認識し攻撃するべきかを教育する細胞です。

 「教育係をたくさん増やして体内に戻すため、体内でより多くのリンパ球を活性化できる可能性がある。そのため、リンパ移入療法よりも効果が高いと期待されている」というのは、滋賀医大病院呼吸器外科の寺本晃治助教です。

 

 滋賀医大病院における樹状細胞ワクチン療法では、まず、患者の末梢血液から樹状細胞の基となる単核球を取り出し、体外で樹状細胞に分化させた後、MUC-1というがん抗原と一緒に培養します。がん抗原とは、正常な細胞には存在せず、がん細胞に豹変した細胞に特異的に生じてくるマークのようなものです。がん細胞らしさを示すものと考えていいでしょう。がん抗原は一種類ではなく、様々な種類が存在していますが、滋賀医大病院では、その中で肺がんや乳がんで多く発現しているMUC-1というがん抗原を利用しています。MUC-1と一緒に培養した樹状細胞を体内に戻すと、MUC-1を発現している細胞を認識して攻撃するようにリンパ球を教育します。

樹状細胞ワクチン治療の仕組み
樹状細胞ワクチン治療のしくみ

がんをやっつけるのはリンパ球だが、そのリンパ球に対して、どれが敵なのかを教える役割を果たすのが樹状細胞

 ただし、肺がん、乳がんの患者さんの中には、MUC-1というマークを持たない方もいるため、同大学で治療を受ける前に、がん組織にこのマークが存在するかどうかを検査する必要があります。検査の結果、MUC-1というマークががん組織にあることが確認できた患者さんが、樹状細胞ワクチン療法の対象となります。

 これまで、滋賀医大病院における樹状細胞ワクチン療法の実施数は累計60人ということです。

 そのうち、1クール6回(約3カ月)の治療を終了した患者さんで効果を評価したところ、「完全に腫瘍が消えたのは1人、腫瘍の大きさが3割減少したのが2人、約4割の患者さんは腫瘍の大きさに変化が見られず、残りの患者さんには治療効果が確認できませんでした」と寺本助教は説明します。

 「この結果から、一見、樹状細胞ワクチン療法は効かない治療法と思うかもしれません。しかし、対象となる患者さんはほかの治療法が効かず、どんな治療を受けても腫瘍がどんどん大きくなり続けていたような患者さんばかりです。そのような患者さんの4割で、治療期間である約3カ月の間、腫瘍の増殖を止めることができたことは意味があるのではないでしょうか」(寺本助教)。

 すなわち、がんを治す効果への期待は薄いものの、ほかに治療法のない患者を延命できる可能性を秘めた治療法といえそうです。

樹状細胞ワクチン療法による肺がんの治療例。治療後の写真では、肺がんの病巣が小さくなっているのが分かる

樹状細胞ワクチン療法による肺がんの治療例。治療後の写真では、肺がんの病巣が小さくなっているのが分かる

 加えて、樹状細胞ワクチン療法には重篤な副作用はなく、「主な副作用は、37.5度程度の微熱」(寺本助教)です。発熱は免疫が働いているサインとも考えられます。「『発熱があった方が効果が出る可能性がある』とも、患者さんには説明しています」と寺本助教も語ります。副作用がほとんどない治療法であるため、患者はクオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)を落とさず、治療を受けられるのです。

 このように患者にやさしい治療法として期待される樹状細胞ワクチン療法ですが、患者一人ひとりに合わせたオーダーメードの治療法であるため、どうしても医療者側からすると「手間がかかる治療法」(寺本助教)となってしまいます。そのため、治療費も高額という課題があります。滋賀医大病院では1回分の樹状細胞ワクチン療法は12万6600円。1クール6回とされているため、6回の治療費は合計75万9600円となります。

 「MUC-1というマークを持つがんかどうかを調べる検査は保険で受けることができ1万円程度」(寺本助教)ということですが、通院に必要な交通費なども含めると患者の金銭的な負担は非常に大きいといえそうです。

 次回は、樹状細胞ワクチン療法の実際を紹介します。

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