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群馬大学
重粒子線医学研究センター(2)

治療期間も短く患者にやさしい
重粒子線治療

( 2010/10/29 )

※2016年、2018年に、骨軟部腫瘍(根治的切除非適応の骨軟部腫瘍)、頭頸部がん(口腔および咽喉頭の扁平上皮がんを除く)、前立腺がん(限局性および局所進行性前立腺がん(転移のないもの))については、保険適用になりました。

 2010年6月、総合病院では初めての先進医療の対象となる重粒子線治療の実施施設として認定を受けた群馬大学医学部附属病院(以下、群馬大病院)。ここでは、今年3月にオープンした最新の医療施設が重粒子治療の舞台となっています。今回は、その実際をレポートします。

シンクロトロン


放射線は、空間や物質中を波や粒子の形で伝わり、物質にエネルギーを与える。放射線の中で電子より重い粒子を用いたものを粒子線、その中でもヘリウムより重い粒子を用いたものを重粒子線と呼ぶ

放射線は、空間や物質中を波や粒子の形で伝わり、物質にエネルギーを与える。放射線の中で電子より重い粒子を用いたものを粒子線、その中でもヘリウムより重い粒子を用いたものを重粒子線と呼ぶ


光速の約70%まで重粒子(炭素イオン)を加速できるシンクロトロン。加速された炭素イオンを患者に照射して治療する

光速の約70%まで重粒子(炭素イオン)を加速できるシンクロトロン。加速された炭素イオンを患者に照射して治療する

 群馬大病院の敷地の左奥、奥行き45m、幅65m、高さ20mの建物が、重粒子線医学センターです。中には、光の速度の約70%まで重粒子(炭素イオン)を加速することができる加速器(シンクロトロン)が設置されており、加速した炭素イオンを患者に照射する治療室が3室あります。

 シンクロトロンとは、電磁石を円形に配置して磁場を作る装置です。この磁場で炭素イオンを曲げて周回させることにより、加速させます。従来型のシンクロトロンは非常に巨大な装置が必要でしたが、群馬大病院に設置されたシンクロトロンは、重粒子線治療の普及を目指して小型化した最新の装置で、海外からも注目を集めているそうです。

 群馬大病院における治療の流れとしては、まず問診、検査などによる診察を行い、重粒子線治療が適応となるかについての検討を行います。そして、重粒子線治療を行うことになった場合、治療準備に入ります。

 治療準備の段階は、炭素イオンを正確に照射できるように体を固定する固定具の作成、照射量や回数などを決める治療計画を作成します。また、がんの形に合わせて正確に炭素イオンを照射するための特殊な器具も作成します。作成した治療計画や器具を用いて、予定通りに照射できるかを検証する予行練習も行っているということです。

 「治療準備は、患者さん1人ひとりに合わせてオーダーメイドとなるため、少し時間がかかります」と群馬大学重粒子線医学研究センターの大野達也准教授は説明します。現状では、2〜3週間ほどの準備期間が必要ということです。ただし、将来的には、1〜2週間程度まで準備期間を短くする計画ということです。


 

一般的な放射線治療に比べて短時間で治療が終了

明るく開放感のある吹き抜け空間が待合室となっており、患者も安心して治療に臨むことができる

明るく開放感のある吹き抜け空間が待合室となっており、患者も安心して治療に臨むことができる

 さて、いよいよ治療です。

 1回の照射時間は前立腺がんの場合、1分程度です。じっとしていればすぐに終了となります。照射中に痛みや熱を感じることもありません。MRI検査時のように騒音に悩まされることもありません。

 また、一般的な放射線治療に比べると、約半分程度の照射回数で治療が終了するということです。例えば、前立腺がんの場合、一般的な放射線治療では約40回の照射が必要ですが、重粒子線治療では16回の照射で治療は完了するといいます。照射回数が減るということは、治療に必要な日数が減るということで、日常生活への早期復帰が可能になります。


 群馬大病院で重粒子線治療を受ける際には、検査から治療まで入院して受けることも可能ですし、通院治療も可能です。ただ、初回の外来診療は、地域連携の仕組みに基づき、医療機関(群馬大病院を含む)からの完全予約制となっています。患者は、主治医に群馬大病院で重粒子線治療を受けたい希望を伝え、その医師から重粒子線医学研究センターに予約を入れてもらいます。これはより多くの患者を適切かつ円滑に診療するためなのだそうです。

 治療終了後は、それまでの主治医や群馬大病院の担当医が、定期的に経過観察を行います。

 重粒子線治療は、がんのある部位に狙いを定めて照射するため、従来の放射線治療に比べて副作用が少ないと考えられています。とはいえ、残念ながら副作用はゼロではありません。また、がんの種類や照射方法により、副作用の現れ方も変わってきます。放射線治療の特徴として、3カ月以上経過した後に生じる副作用があることも知っておきたいものです。

重粒子線治療の技術料は314万円

 群馬大病院の場合、重粒子線治療にかかる技術料は314万円となっています。がんの発生部位や状態などにより、照射回数は異なってくるのですが、照射回数に関係なく、重粒子線治療の技術料は一律です。重粒子線治療以外の検査や入院、薬代などは保険診療となります。

 現在、群馬大病院で放射線治療にかかわっている医師は総勢16人。放射線治療を専門とする医師が全国でも非常に少ない現状を考えると、恵まれた環境といえます。放射線治療の専門医が多数在籍する総合病院だからこそ、重粒子線治療も含めた豊富な選択肢の中から、自分により適した治療法を選択できるのが群馬大病院なのです。

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