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千葉県がんセンター(1)

切らずに治す乳がん治療

( 2010/12/20 )

 2cm以下という早期の乳がんに対して、メスによる切除ではなく、がん組織に針を刺しそこから発生させたラジオ波でがん細胞を殺すラジオ波熱凝固療法(Radiofrequency Ablation:RFA)が乳がんの新しい治療法として注目されています。「切らずに治す」乳がん治療は患者にとって大きな希望ですが、まだ研究途上の技術で、標準治療として普及させるためにはいくつものハードルを越える必要があるようです。現在、この治療法を1cm以下の乳がんに限定して実施している多施設共同臨床試験参加の6施設(2010年11月1日現在)の1つ、千葉県がんセンターを訪ねました。

ラジオ波熱凝固療法(Radiofrequency Ablation:RFA)とは?

 私たちの体を構成しているたんぱく質は「熱に弱い」「熱にさらされると凝固する」という性質を持っています。その代表的な例がゆで卵です。液状の生卵を加熱すると、たんぱく質が熱により凝固して、ゆで卵になります。このことを「熱凝固」といいます。

 生きている細胞にも同じことが言えます。細胞は50℃ほどの温度にさらされると細胞内のたんぱく質に変化が生じます。70〜80℃になると、細胞のたんぱく質が熱凝固し、組織に重大な損傷が生じます。がん細胞は正常細胞よりも熱に弱く、42〜43℃でほとんどが死んでしまいます。この性質を利用したがんの治療法が温熱療法ですが、43℃程度では生き残るがん細胞がいることから、温熱療法単独でがんを根治することはできません。

乳がん治療の種類

乳がん治療の種類

 最近、電磁波を使ってがんを集中的に加熱する治療法が開発されました。電磁波にはいくつかの種類があります。現在最も多くの医療機関で乳がんの治療に採用されているのがラジオ波で、その治療法をラジオ波熱凝固療法(Radiofrequency Ablation:以下RFA)といいます。ちなみに、このラジオ波はAMラジオと同じ周波数の電磁波です。RFAは肝細胞がんの治療法としては公的医療保険が適用される標準治療ですが、乳がんへの適用については、まだ標準治療として確立しておらず、臨床試験の段階です。


 

1cm以下の乳がんに限って適応

 千葉県がんセンターでは、2006年2月より施設の倫理審査委員会で承認されたセンター独自の臨床試験として、30人の方が乳がんのRFAを受けています(10年11月現在)。「治療を開始してからまだ4年半と短いこともありますが、今のところ再発した患者さんはいません」と、この治療の筆頭医師である千葉県がんセンター乳腺外科の山本尚人部長は話します。

 千葉県がんセンターでは、乳がんのRFAが第3項先進医療に認定されて以来(技術名:経皮的乳がんラジオ波焼灼療法 適応症:早期乳がん)、国立がん研究センター中央病院(東京都)が中心となって行っている臨床試験に参加する形で、この治療の研究をさらに進めているそうです。ただ、乳がんのRFAは薬事法未承認の医薬品や医療機器を用いる第3項先進医療です。このため、日常的に行う一般的な治療とするには、課題がまだ多く残っています。

 臨床試験という性格上、患者にこの治療を行うかどうかを決める条件は、厳しく設定されています。まずその条件として挙げられるのは、乳がんの大きさが1cm以下と小さいことです。加えて、リンパ節転移などがないことが必須です。大きながんや小さくても広がっているようながんは適応になりません。そのために、術前に画像検査を十分に行い、がんの形状を見極める必要があるのです。

 この臨床試験は、乳がん患者を実際に救うことに加えて、治療実績を重ねて治療の安全性や術後の合併症・後遺症などについて検討を行うことが目的です。そのため「治療を希望される患者さんには、長期的な治療成績のデータがまだ得られていないこと、研究途上の治療法であり、予期しない合併症が発生する可能性があることなどを説明して納得していただいたうえで実施しています」と山本部長は説明しています。

千葉県がんセンター

全国で6カ所ある乳がんのRFAを先進医療として実施できる認定施設の1つ、千葉県がんセンター

 乳がんのRFAは「切らずに治す乳がん治療」とマスコミでも取り上げられ、治療を希望する患者も大勢いますが、この治療は研究途上であり、十分な検証が行われないまま患者の期待を集めていることに警鐘を鳴らす専門医もいます。日本乳癌学会は今年、各医療機関にアンケート調査を実施しました。その結果、RFAを含む乳がん低侵襲(正常な部位への影響が少ない)医療は標準的な治療法ではないことから、当面は臨床試験に限定すべきという見解を同会のホームページに公表しています。このため、乳がんのRFAは現在臨床試験に限って実施されており、千葉県がんセンターも同様の取り組みをしています。


より低侵襲の乳がん治療に進化

 まだ臨床試験で慎重に評価をしなければなりませんが、このRFAが注目されているのには理由があります。乳がんの手術は、乳房のすべてを切除する「乳房切除手術」、乳頭だけを残して乳腺のすべてを切除する「乳頭温存手術」、周囲の正常組織を限られた範囲で切除する「乳房温存手術」があります。こうした手術の方式を選択する基準になっているのが、がんの大きさや乳房内での広がりです。がんが進行して大きくなっていたり、がん自体は小さいけれども乳腺の中を這うように広がっている場合は「乳房切除手術」や「乳頭温存手術」が選択されます。

 最近は、マンモグラフィーなどの乳がん検診が普及して、より早期の小さい乳がんが発見されるケースが増えてきました。それに伴い、乳がんの治療をいかに低侵襲で行うか、手術後の乳房の形の崩れをいかに防ぐかといったことに、医師の関心も向くようになりました。こうした乳がん手術の低侵襲化の流れの中で登場したのが、RFAだといえます。

山本部長

「低侵襲の乳がん治療としてRFAに多くの医師が注目している」と説明する千葉県がんセンター乳腺外科の山本尚人部長

 RFAの魅力は、手術時間の短さと術後の社会復帰の早さにあります。早期の乳がんを手術する場合は、縫合などの処置も含めて30分から1時間はかかることが普通ですが、RFAであれば「処置時間は5〜15分で、平均は11分くらい」(山本部長)という短さです。さらに、乳房を切らないことから、乳房が傷ついたり、変形することがほとんどないことも、患者にとって大きな魅力となります。また、千葉県がんセンターでは、手術前に2日、手術後は2〜4日、合計で5〜7日の入院をすることになっていますが、退院後はすぐに日常生活に戻ることができます。

 ただし、前述のように専門医たちは、乳がんRFAの潜在的な可能性を認めつつも、標準治療への導入には慎重です。患者としても、この点について手術前によく説明を受け、納得しておく必要があるでしょう。次回は、乳がんのRFAを希望する場合、どこに注意すべきかを山本部長に説明してもらいます。


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