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千葉県がんセンター(2)

ラジオ波で乳がんを焼き切る

( 2010/12/28 )

 乳房を切除することがない乳がんの新たな治療法として、ラジオ波でがん細胞を殺すラジオ波熱凝固療法(Radiofrequency Ablation:RFA)が注目されています。乳房を傷つけることなく治療でき、かつ、すぐに社会復帰できるというメリットもありますが、合併症の可能性も指摘されており、乳がんではとりわけ重視されるべき長期的な成績がまだ明らかになっていない治療でもあります。治療を受けるに当たって、どんなことに注意すべきでしょうか。

 日本乳癌学会は2010年6月、医療安全委員会委員長の大内憲明氏(東北大学大学院教授)の名前で、「乳癌低侵襲治療の現状に関するアンケート調査報告」を公表しました。これは近年、日本国内で急速に広がっている低侵襲(正常な部位への影響が少ない)治療の現状について、専門的な乳がん診療を行っている国内831施設の医療機関を対象にアンケート調査を実施したものです。

日本乳癌学会は「RFAは臨床試験として実施されるべき」

 アンケート調査をしたのは、乳がんの低侵襲治療の1つ、ラジオ波熱凝固療法(Radiofrequency Ablation:以下RFA)の治療を受けた後で、乳がんが再発したという事例が最近目立ってきたからだそうです。アンケート結果を見ると、RFAは国内の29施設で実施されていることが明らかになりましたが、そのうちの9施設は臨床研究以外の目的で行われていました。日本乳癌協会は、RFAがまだ標準的な治療とは言えない中で、臨床研究以外の目的で行われている例があることを重く見て、「RFAは臨床試験として実施されるべき」との見解を公表したのです。

ラジオ波凝固療法
(Radiofreaquency Ablation : RFA)
の実施施設の内訳

ラジオ波凝固療法(Radiofreaquency Ablation : RFA)の実施施設の内訳)

アンケートによると、国内で乳がんのRFAを実施している施設は29施設あり、うち9施設が臨床研究以外の目的で実施。その9施設が、全体の症例数1049件のうち、半数を占めている

 乳がんのRFAが研究段階であるということは、まだ標準的な治療方法として確立されていないことを意味します。例えば、すでに保険適用されている肝がんのRFAは、「3cm以内3個以下、あるいは5cm以内単発」と適応症の基準が明確に定められていますが、乳がんのRFAではまだそうした基準が決まっていません。



 千葉県がんセンターでは前回説明したように、乳がんのRFAは研究段階との位置付けを明確に打ち出し、適応症も1cm以下に限定しているため、再発した患者はいません。ところが、RFA実施施設の中には、3cmの大きさの乳がんでも「乳房に傷をつけたくないので、どうしてもRFAにして欲しい」という患者の強い要望を聞き入れ、実施した施設もあるようです。がんが大きいとラジオ波の熱で十分に焼き切ることができず、再発の可能性が高くなります。さらに、乳がんの再発をいち早く確認する方法はMRI検査だと言われていますが、そうした施設では術後の再発チェックの重要性を、患者に伝えきれていなかったことも考えられます。

 そのほかにも、再発の原因が考えられます。外科手術の場合は、切り取った組織を精査(病理検査)して、がんがそっくり取れたかどうかを確認することができます。例えば、前回説明した乳房温存手術は、がんを取り囲む正常組織ごと切除しますので、切り取った組織を調べれば、がんを取り残していないことが確認できます。しかし、RFAは組織を焼いてしまう方法ですから、病理検査ができません。そこで、術前の画像診断の精度を高め治療の範囲を正確に定める必要があるわけですが、そうした検査の経験と実力が備わっていないと、がん細胞を見落とし、再発の原因となることがあります。

 

RFA治療の合併症は熱傷としこり

 さて、RFAの合併症についても説明しましょう。RFAで注意を要する合併症には、熱傷としこりの形成があります。千葉県がんセンター乳腺外科の山本尚人部長は、「熱傷はRFAによる摩擦熱が皮膚に及ぶものですが、危険性は低いものです。最も注意すべき合併症はしこりです」と説明しています。

 前回RFAの原理を説明しましたが、熱凝固とはたんぱく質が熱変性によって固まることです。患部の細胞組織が熱凝固するとしこりとなります。中には、このしこりが乳房の変形をもたらすこともあるようです。乳房の形を美しく保ちたいから傷をつけないRFAを選んだのに、それがかなわない場合もあるというのです。ただし、「このしこりは次第に小さくなって、2〜3年後にはほとんどの人のしこりは消えます」(山本部長)。

 ところが、しこりが消える前にがんが再発した場合、これが厄介な問題となります。しこりが合併症によるものなのか、再発によるものなのかが区別しにくくなるからです。再発した乳がんによるしこりを、合併症によるものだと思い、再発に気がつかなかった患者もいます。

 こうした再発の問題を含め、効果がまだはっきりしていないことが乳がんのRFAの問題です。その原因は長期的な臨床試験の結果がまだ出ていないことにあり、そのため日本乳癌学会は慎重な姿勢をとっています。乳がんは術後の生存率が最も高いがんで、手術した後10年、20年と長生きすることが珍しくないがんです。乳房の形を美しく保つことができ、社会復帰も早い一方で、長期的な成績の確認されていないRFAを選ぶか、または、乳房の変形や傷は残りますが、効果がはっきり確認されている乳房切除術や乳房温存術といった標準的な治療を選ぶか、正しい情報をもとにご自身の価値観により慎重に検討することをおすすめします。

乳がんの罹患数の推移(推計も含む) 乳がんの罹患数の推移(推計も含む)

乳がんの罹患数は確実に増加傾向にある。今後さらに増えると予想される中、低侵襲治療であるRFAへの期待が高まる

 もちろん、技術的な問題点が解決し、長期的な成績がはっきりしてくれば、RFAが乳がんの画期的な治療法になることは間違いありません。そのためにも、日本乳癌学会におけるRFAのさらなる研究の進展を期待します。ちなみに、山本部長は、11年の日本乳癌学会学術総会と同時に開催される乳癌低侵襲治療研究会の責任者を務める予定で、「この研究会では、全国で実施されているRFAの成績を集め、安全性の評価を行う予定」とのことです。


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