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がんと仕事を考える(1)
がんと診断されたら仕事を辞める?続ける?

一般社団法人CSRプロジェクト代表理事
NPO法人HOPEプロジェクト代表
桜井なおみさん

( 2016/3/25 )

生涯を通じて2人に1人が1回はがんになるといわれ、誰ががんになっても不思議ではない時代です。働き盛りの人間ががんになることもあります。自らがんサバイバーで、がん患者やがんサバイバーの生きる意欲や能力を十分に発揮できる社会の実現に向けて支援を続ける一般社団法人CSRプロジェクト代表理事の桜井なおみさんに、がんと診断された後の仕事に対するアドバイスをうかがいました。

ポイント  がんと診断された後の仕事の考え方

  • がんと診断されても仕事は無理と即断即決せず、治療中、治療後の自分の働き方を調整していく。
  • がんという病気やその治療がもたらす生活への影響を医療スタッフにしっかりと説明してもらう。
  • 業務に支障が出ることがあれば、職場の上司に説明して配慮や協力を引き出すようにする。

仕事を持っているAさんががんと診断されました。本人にとっては全く、青天の霹靂でした。
 大変だ、これからどうしよう?
 親しい友人に相談したら、「仕事は辞めて、がんの治療に専念したらどう。治療が終わってから仕事に復帰すればいいじゃない」というアドバイス。確かに仕事を続けながらがんの治療を受ける事ことには不安を覚えます。こんなときは友人のアドバイスに従って、仕事を一度辞めてがん治療を受けてみようかとAさんは考えます。
 「こんなときに大切なことは即断即決しないことが大切です」と桜井さんは言います。「がんと診断されるとパニックの中で仕事を辞めてしまう人がいます。でも、がんの治療が終わっても人生が続くことを冷静に考えて、じっくり考えて後悔しない結論を出すようにお薦めします」。
 実際に仕事をしながらがん治療のために通院している人は、32.5万人にのぼると推測されています(2014年厚生労働省調査)。がんになっても「仕事を辞めない」人も少なくないのです。

経済的な問題だけではなく心の支えに

 生きて行くために仕事がなくてはならないことは言うまでもありません。第一に、生活して行くために必要な経済的な支えが必要になります。治療にも生活にもお金がかかります。医療保険やがん保険などのサポートがない場合、貯金を取り崩しての生活を余儀なくされることになります。
 さらに仕事を続けることは心の支えとしても非常に大切なものです。
 がん治療中の患者は、心にも大きな変化をもたらします。特に、患者にとって大きな負担を感じるのは、診断直後よりも通院治療中の方が大きいという調査があります。こんなときに心の支えとなってくれるのが、働くという行為です。
「社会のなかで役割をもって生きること、すなわち働くということは、患者の尊厳を支える重要な要素です」と桜井さん。「働き世代のがん患者が職を失うことは社会的なアイデンティティや生きがいの喪失にもつながり、結果的に人生の質が損なわれることになりかねません。喪失感は大きいです」

まず受ける治療を熟知する

 即断即決はひとまず、思いとどまるとして、ではどうすればよいでしょうか。
 実は、がんになって治療と職業生活の両立は簡単ではないことも事実です。内閣府による「平成26年度がん対策に関する世論調査(調査時期:2014年11月)」の結果、治療と職業の両立を「困難」とする回答が約70%に達しています。両立させるために必要な事柄を考えておく必要があります。
 「仕事を続けながら治療にするにあたって一番大事なことは、治療の内容について理解しておくことです」(桜井さん)。治療のスケジュール、つまり、通院の頻度や治療にかかる時間。それがいつまで続くのかということだけではなく、治療の副作用や副作用が生じる時期や期間、その対処方法もきちんと聞いて整理しておく事が大切です。もし、仕事や自分の生活に支障が出る可能性があることは、具体的に医療スタッフに聞いておく事が大切です。
 抗がん薬の中には、ぴりぴりというしびれる副作用が出るものがあります。こうした薬剤を使った場合、パソコンの入力がしづらくなります。そこで、感覚になれるまでの間は、少しだけ業務量を減らすなどの配慮をひきだすことが大切です。

職場でのコミュニケーション

次に重要なのが、職場にどのように説明するかです。私たちが行った調査では、自分ががんを患っている事を職場に全く報告していない人も30%にのぼっています。職場の上司や同僚に内緒でがん治療を続けることも、患者さんの熟慮の選択である以上、一概に否定することはできません。
 しかし、業務に支障が出ることも予想される場合は、病状をある程度、会社に伝える必要があります。定期的に通院が必要な場合は、勤務を定期的に休む必要があります。発病前には可能だった長時間の立ち仕事が困難になるケースもあります。仕事に新しい制約がかかる場合はそれを職場の関係者、とくに直属の上司に伝える必要もあります。
 そのとき上司が聞きたいことは病名や進行の度合いではなく、「業務を進める上で職場としてどのような配慮が必要か」であり、「治療を続けながらも仕事をするための環境づくりを、職場や上司と一緒につくっていきたい」という意向を伝えることです。
 桜井さんによれば、「“○○日に1度、休みますが、そのほかの日は普通に働けます”とか“手術のために腕が上がりにくくなっていますが、その代わりに○○はがんばります”というように具体的に説明して、できることを伝えることが必要です」とのことです。
 一方で、桜井さんは「病名や治療の全てを上司や同僚に告げる必要はありません。上司に報告するのは、仕事に影響を及ぼすことがらと見通しです。見通しは、5年相対生存率ではなく、半年程度のわかる範囲で構いません。患者自身への負担を減らすためですから、包み隠さずつまびらかにする必要はありません」とも語っています。
 以上のような事柄を踏まえて、具体的にイメージして、仕事を辞めるのか、続けるのかを決めるようにしましょう。

自分の今を見つめることの大切さ

桜井さんは働きたいかどうかを考えて、働き続けたいのならば、次に「どう働きたいか?」を自身に問いかけてみるステップが大切だと指摘します。
具体的には

1) こなせる体力はあるか
2) 見合う能力はあるか
3) 年収はどの程度必要か

 について、書き出してみることを薦めています。「大切なのは自分の今を見つめ直すことです」と桜井さんは語っています。

桜井なおみ写真

桜井なおみ(さくらい・なおみ)さん

一般社団法人CSRプロジェクト代表理事
NPO法人HOPEプロジェクト代表

1967年生まれ。設計事務所のチーフデザイナーを務めていた37歳のときに乳がんが見つかり、治療のため約8カ月間休職を余儀なくされる。職場に復帰したものの、治療と仕事が困難になり2年後に退職。その経験を活かし、がんサバイバーたちの就労問題を考えるプロジェクト(Cancer Survivor Recruiting Project)を開始した。

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