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がんと仕事を考える(2)
がん治療を続けながらの就活

一般社団法人CSRプロジェクト代表理事
NPO法人HOPEプロジェクト代表
桜井なおみさん

( 2016/4/25 )

「がん治療に専念しようと思い、退職してしまった」。こんながん患者さんもしくはがん経験者が多いのではないでしょうか。治療にめどが立ったので、再就職したい。こんなときにどのようなところに気をつければよいのでしょうか。今回は、一般社団法人CSRプロジェクト代表理事の桜井なおみさんに、治療中のがん患者さんもしくは治療終了後のがん患者さんの再就職に向けたアドバイスを伺いました。

ポイント

  • 就活を始めるにあたって自分の状況を客観的に把握し、企業の担当者の質問に的確に応答できるよう準備しておきましょう。
  • ハローワークを積極的に活用しましょう。
  • 面接の受け方のちょっとしたコツを知っておきましょう。

 がん患者のAさんは、「治療に専念しよう」と思い、それまで勤めていた会社を退職しました。治療はうまく行き、定期的に通院することになりました。そこで思い立ったのが再就職です。治療を受けている最中は治療のことで頭がいっぱいで、再就職にまで気が回りませんでした。しかし生活がある以上、仕事は必要です。どこから始めればよいか分かりません。

まず自分の状態を客観的に見て、メモに書きだす

 手術や放射線治療が終わって、経過観察や術後薬物療法などを受ける段階になって、「これからの生活はどうしよう、仕事はどうしよう」と思いあたるケースは少なくありません。改めて就職活動、いわゆる就活を始める段階になって、途方にくれてしまうという方は多いようです。
 「そんなときはまず、自分自身を客観的に知ることから始めてみることをお勧めします」と桜井さんは語ります。「自分自身に問いかけて、なぜ働くのか、どのように働くのかを具体的にイメージすることが大切です」
具体的には

1) 体力は十分か
2) 仕事に就く能力はあるか
3) 必要な年収はいくら位か

 ということを自問自答して、メモに書きだしてみることは、冷静に自分や自分が置かれた状況を把握するのに有効です。「冷静に自分を把握しておくことは、採用担当者との面接の際にも、自分をアピールする上で効果的なポイントになります。必要な年収の根拠として、『前に勤めていた会社と同じ金額だから』を挙げる方も多いですが、状況が変わっていることを考慮して、最低限どのくらいの金額が必要かを改めて考えてみることをお勧めします」と桜井さんは語ります。

ネガティブな要素もポジティブに変換

 がんを経験したということは、残念ながらポジティブな印象にはつながりません。常に採用する側の気持ちや立場になって考えてみることが大切です。「がん」というネガティブな印象で面接を終えてしまうのは勿体ない。「私はがんを経験して、改めて働く事の喜びや意味を見つけることができました」とポジティブな印象へ変換して伝えておく必要があります。担当者は必ずしも病気について十分な知識を持っているわけではありません。しかし先方が本当に知りたいことは、患者さんやサバイバーの方々にやる気があるのか、自社にどのような貢献ができるのか、就業にあたってどのくらい配慮する必要が生じるかです。病名を伝える、伝えないということよりも、志望理由をしっかり伝えることのほうが大切です。

雇用をめぐる社会保険制度や福利厚生

 再就職にあたって重要なポイントがその雇用形態です。
 正社員、契約社員、パートタイマー・アルバイト、派遣社員、個人事業主など様々な雇用形態があります。自分はどれを望むのか、あるいはそれぞれの雇用形態によって異なる雇用条件を吟味し、自分に合うかどうかを検討してみましょう。
 がん経験者にとって大切な点は、雇用形態が違うと、社会保険制度や福利厚生にも違いが出ることです(表参照)。労災保険は個人事業主を除く全員が対象になります。雇用保険は短時間・短期間の勤務の場合は加入できません。健康保険・厚生年金は正社員は原則加入ですが、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員では勤務時間、雇用期間が短い場合は加入できないケースがあります。
 社内制度は会社によって様々な制度があります。福利厚生は正社員を想定して作られているケースが多く、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員では勤務する会社によって扱いが異なります。
 就職にあたって障害者枠を利用することもできます。一般企業では2%以上の割合で障害者を雇用することが義務づけられています。がん患者で対象となるのは、大腸がんで人工肛門を造設した場合、膀胱がんによって人工膀胱を造設した場合、あるいは骨肉腫により人工関節や人工骨頭に置換した場合などで、いずれも障害者手帳の交付を受けたうえで、障害者枠で雇用されることになります。

表:雇用形態により異なる社会保険制度・福利厚生
雇用形態により異なる社会保険制度・福利厚生

ハローワークで探す

 2013年度から、ハローワークとがん診療連携拠点病院(全国に399カ所)が連携してがん患者や経験者に仕事を紹介したり、相談にのる「がん患者等長期療養者に対する就職支援モデル事業」がスタートしています。ハローワークに相談する場合は、病名だけではなく、これまでの経歴、働き方の希望やその時点でできること、通院頻度などの治療状況もしっかり担当者に伝えることが大切です。

面接時のキャリアブランクの説明

 面接試験を受けると治療を受けている間のブランク(キャリアブランク)について尋ねられることもあります。「キャリア・ブランクは必ず聞かれます。職業訓練校に行っていた、家事の手伝いをしていた等、必ず、ただのブランクではないことを伝えてください」と桜井さんは語ります。
 面接では、「本当に働けるのか」という疑問を持つ担当者もいます。
 そのような場合は「○○のように配慮いただければ、△△のような仕事ができます」と具体的に伝えることができるようにしておくと、先方も安心します。
 桜井さんによると「面接で尋ねられることを想定し、自問自答して、答を固めておき、本番に備えるようにすると良い」そうです。

桜井なおみ写真

桜井なおみ(さくらい・なおみ)さん

一般社団法人CSRプロジェクト代表理事
NPO法人HOPEプロジェクト代表

1967年生まれ。設計事務所のチーフデザイナーを務めていた37歳のときに乳がんが見つかり、治療のため約8カ月間休職を余儀なくされる。職場に復帰したものの、治療と仕事が困難になり2年後に退職。その経験を活かし、がんサバイバーたちの就労問題を考えるプロジェクト(Cancer Survivor Recruiting Project)を開始した。

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