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脳卒中インタビュー

北原国際病院リハビリテーション科 理学療法士 亀田佳一先生に聞く

北原国際病院リハビリテーション科 理学療法士
亀田佳一先生に聞く

質の高いリハビリテーションを自宅でも。
脳卒中患者向け「オンライン遠隔リハビリサービス」が試験開始

( 2020/09/25 )

亀田佳一(かめだ・よしかず)

北原国際病院リハビリテーション科理学療法士。1976年生まれ。1999年大阪工業大学卒業。2006年国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院卒業。2006年北原国際病院入職。現在は広報責任者、兼リハビリテーション科理学療法士。

ポイント

  • 脳卒中の後遺症対策として、質の高いリハビリテーション(以下、リハビリ)を継続的に行う必要がありますが、現状の公的医療保険制度では量も質も十分ではありません。
  • 自宅でいつでも実施が可能な「オンライン遠隔リハビリサービス」の試験導入を開始しました。
  • タブレットやスマートフォンのアプリを使って、セラピストと動画でやり取りをしながら自宅でリハビリに取り組むことができます。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響で、対面での受診を敬遠している患者さんにも安心です。
  • 将来的には、脳卒中患者に必要なケアをさらに包括的に盛り込んだアプリに発展させる計画です。また、他の疾患への展開も視野に入れています。

 脳卒中を発症すると、さまざまな後遺症が残ることがあります。できる限り元の生活に戻れるようにするには、継続的なリハビリが重要です。北原病院グループは、株式会社エクサウィザーズと共同で、質の高いリハビリを自宅で受けられるようにするための「オンライン遠隔リハビリサービス」を開発し、2020年6月から試験導入を開始しました。このサービスについて、北原病院グループ広報部責任者で理学療法士の亀田佳一先生に伺いました。

リハビリに必要な「量」と「質」が不足している

脳卒中を発症した患者さんにとって、リハビリが大切なのはなぜでしょうか?

 脳卒中を発症すると、脳の一部が損傷します。これによって、多くの患者さんに片麻痺(体の左右いずれかに運動麻痺が生じること)、感覚鈍麻どんま(感覚が鈍って感じにくくなること)、言語障害(言葉が出ない、ろれつが回らない)など、さまざまな後遺症が残ります。

 今のところ、体の機能を改善する方法はリハビリしかありません。リハビリを行わずに放っておくと、体を動かすことができない患者さんは筋肉がどんどん弱っていき、寝たきりになってしまいます。しかし、リハビリを行うことによって、脳内で障害を受けた部位を避けて神経経路の「迂回路」が新しく作られ、体を動かせるようになります。一度動かせるようになった後も、後遺症が完全になくなることは少ないので、定期的なお身体のメンテナンスは必要になります。セラピスト(※)ができるだけ継続して関われるのが理想です。

※ セラピスト:ここでは理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が該当します。

脳卒中後のリハビリを行う上で重要なポイントは何ですか?

 まず、正しい動きで運動することが大切です。脳卒中の患者さんの場合、後遺症の影響で動きを間違えたり、無理な動きを行ったりしやすく、体を動かす時、悪い癖が付いてしまうことがあります。筋肉の緊張をコントロールできなくなって、ひじや手首などが曲がったままになってしまうこともあります(「痙縮けいしゅく」と呼びます)。

 また、量をこなすことも大切です。神経の「迂回路」は、運動を繰り返すことによって形成されていきます。ある程度の量のリハビリを続けることで初めて、新たな動作を獲得することができるわけです。

現在のリハビリにはどんな課題があるのでしょうか?

 まず、一般的な体制では量が足りません。リハビリに公的医療保険が適用されるのは、入院中は1日3時間までです。退院後はさらに少なくなり、多くても週2回程度になってしまいます。また、公的医療保険は発症から180日間しか適用されません。それ以降は公的介護保険が適用されますが、介護保険の範囲で提供されるのはマンツーマンでの指導ではなく、グループでの体操などが多くなっています。個別にリハビリを受けたい場合は自費になるため、経済的な負担が大きくなってしまいます。

 量の不足を補うために、自宅での自主トレーニングを勧めることがあります。しかし、トレーニング方法を記載したプリントを配布したり、口頭で指導したりしても、専門のセラピストの支援なしに一人でリハビリを続けると、間違った動作を習得してしまう恐れがあり、質の面での懸念が生じます。「やり方を忘れてしまった」「モチベーションが上がらない」といった声も多いですし、一人で続けることに不安を感じる患者さんも少なくありません。

現状の課題を解決するオンライン遠隔リハビリサービス

2020年6月に試験導入された「オンライン遠隔リハビリサービス」は、どのようなものなのでしょうか?

 専用アプリを使って、タブレットやスマートフォンを見ながら自宅でもパーソナルな指導を伴うリハビリが受けられるようにするサービスです。オンラインでのやり取りでありながら、施設でのリハビリ指導を受けているような体験が得られることを目指しています。現在は脳卒中による片麻痺の患者さんが対象となっています。

 まず、セラピストが個々の患者さんに合わせて目標を設定し、必要な自主トレーニング動画プログラムを選定します。患者さんは、動画を見ながら自宅でリハビリを行い、アプリの指示に従ってリハビリの様子を動画撮影し、セラピストに送信します。

 動画を受信したセラピストは正しい動作ができているかどうか確認し、患者さんにフィードバックを行います。フィードバックは、その日のうちに患者さんに届きます。動画だけでは動作がよく分からない場合は、テレビ電話機能を使ってセラピストと会話することも可能です。

オンライン遠隔リハビリサービスで提供されるトレーニング動画の選択画面

オンライン遠隔リハビリサービスで提供されるトレーニング動画の選択画面

このサービスの特徴やメリットについて教えてください。

 リハビリには主に「量」と「質」の課題がありました。このサービスを使えば、自宅で動画を見ながらいつでも自主トレーニングができるので、「量」に関する問題が解決します。また、遠隔でもセラピストの指導を受けながらリハビリを行えるので、自宅での自主トレーニングで課題となりやすい「質」に関する問題も軽減できます。

 脳卒中の後遺症はとても多様で個人差が大きく、個別にフィードバックを行いながら進めなければなりません。今回のサービスでは、セラピストから自主トレーニングに対するフィードバックが得られるほか、セラピストに動画を送信する際にトレーニングに伴う痛みの有無や難易度に関する感想を伝えることができます。双方向のコミュニケーションが可能ですので、安心してリハビリを受けることができます。
患者さんの状況は、チームを組んでいる他のセラピストにも共有されているので、担当セラピストが施術中の場合は、他のセラピストが対応することもあります。
リハビリ中に強い痛みを感じたり、調子が悪くなったりした時は無理をせず、患者さんの判断でリハビリを中断してもらうように指導しています。

患者さんの動画を見て、セラピストが注意点やポイントを伝えることもできる(スタッフが患者さん役をしています)

患者さんの動画を見て、セラピストが注意点やポイントを伝えることもできる(スタッフが患者さん役をしています)


患者さんから、トレーニングで痛みや違和感を持った部分を伝える機能も用意されている

患者さんから、トレーニングで痛みや違和感を持った部分を伝える機能も用意されている

実際に利用した患者さんの反応はいかがですか?

 まだ始まったばかりで、さまざまなフィードバックをいただきながら開発を進めていますが、総じて好評です。新型コロナウイルス感染症の影響で、受診を敬遠する患者さんも増えていますが、「このサービスなら安心ですね」と言っていただくこともあります。入院中も、公的医療保険の範囲で受けられるリハビリは1日3時間までですので、入院患者さんにもタブレットを貸し出して、空き時間の自主トレーニングに活用していただいています。

 一方、脳卒中患者さんは高齢の方が多いこともあり、タブレットの使用やWi-Fi環境の整備がネックになる方もいらっしゃるようです。こうした環境整備を含めたパックプランを作ることも検討しています。

脳卒中向けサービスの完成後は、他疾患への展開も

現在は試験導入とのことですが、正式導入の際はどのような内容になりますか?

 利用料は月額3,500~4,000円程度を想定しています(2020年9月時点)。現在、外来での自費のリハビリは1時間1万円程度が相場ですので、それよりも利用料を抑えて提供したいと考えています。

 動画プログラムは現在50種類以上ありますが、患者さんが一人で取り組める動作のみとなっています。正式リリースの段階では、嚥下機能のトレーニングも加えて、さらに多くのプログラムを搭載する見込みです。将来的には介助者と行うトレーニングプログラムや、ご家族に向けた介助指導なども加えていけたらと考えています。

将来の展望についてお聞かせください。

 まずは、栄養指導なども含めて脳卒中のケアを包括的に扱う「脳卒中パック」として、今回のサービスを完成させることが目標です。その後は、他の疾患への展開も検討しています。現在は特にフレイル(※)対策への課題意識を持っています。

※ フレイル: 健康な状態と要介護状態の中間の段階で、加齢に伴うさまざまな身体機能の変化や認知機能の低下によって健康障害を招きやすい状態のこと

 また、現在はアプリの操作のみにAIが使われていますが、将来的には、個々の患者さんに合わせたトレーニングプランの作成や動画によるフィードバックなどにも、AIを活用したいと考えています。現場の声を吸い上げて、今回のオンライン遠隔リハビリサービスの発展や別の製品の開発につなげていけるよう、検討グループも立ち上げました。セラピストはもちろん、医師や看護師、介護福祉士など、この領域に関心のある医療従事者を対象としたコミュニティです(「リハビリテーション×AIイノベーションラボ」)。医療分野を志す学生さんなど、若い方にもぜひ参加していただきたいです。

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