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脳卒中の今

秋田脳研が脳卒中予防の健康教室1周年でブラッシュアップ講習会を開催 ( 2015/03/20 )

 秋田県立脳血管センター(以下、秋田脳研)では、県民の健康保持の支援を目的に、さまざまなイベントを開催してきました。2014年2月からスタートした「健康教室」もその1つです。毎週1回、保健師が脳卒中の危険因子や予防策について分かりやすく説明する勉強会で、秋田脳研が監修して秋田キャッスルホテルが調理した「健康弁当」を味わえる楽しみもあります。この1年で48回開催し、のべ785人が出席しました。

 講話内容や健康弁当は毎週変わり、1クール4回すべてに参加した人は、脳卒中予防の知識を身につけた「秋田脳研健康伝道師」に認定。すでに151人の健康伝道師が誕生しています。

1年間のべ48回開催された脳卒中予防の「健康教室」の集大成、「ブラッシュアップ講習会」が、2月19日に秋田キャッスルホテルで開催されました

1年間のべ48回開催された脳卒中予防の「健康教室」の集大成、「ブラッシュアップ講習会」が、2月19日に秋田キャッスルホテルで開催されました

 スタートからちょうど1年に当たる2015年2月19日。48回を数えた健康教室の総括とも言える「ブラッシュアップ講習会」が、秋田キャッスルホテルで開催されました。用意された席は満席。参加者200人が、これまでの健康教室と同じように健康弁当を食べながら聴講しました。

 開会の挨拶に立ったのは、健康教室の運営に尽力してきた秋田脳研の鈴木明文センター長。「かつて秋田県は県民病とも言える脳卒中で亡くなる方がたくさんいました。秋田脳研が中心になって減塩運動や治療体制を整えたことで死亡率は減少しましたが、発症する人の数はあまり減らなかった。結果として、麻痺などの後遺症を残す人が増えてしまったんですね。脳卒中で苦しむ人をなくすには、治療やリハビリだけでなく発症自体を防ぐこと、つまり予防に取り組むことが不可欠でした」。

 秋田脳研は、県内各地で予防の大切さを伝えるため啓発活動である出前講座を行ってきましたが、一方的に知識を与えるだけの講習会形式では、せっかくの知識も実践されないまま、すぐに忘れ去られてしまう状況でした。その反省から、受講者参加型の健康教室を開催するに至ったそうです。

 健康教室ではディスカッションや質問する場も多く設けて知識の定着を図るとともに、健康弁当という新たな取り組みで、塩分やカロリーを抑えてもおいしい食事は作れることを具体的に示してきました。

脳卒中予防に生かす脳ドックの取り組み

 基調講演の前半を担当したのは、秋田脳研で急性期の脳卒中患者を診療している佐々木正弘医長。「脳卒中を斬る」というテーマで、秋田県における脳卒中発症の現状について紹介しました。「秋田県は総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が高く、高齢化率が全国第1位。それにともなって脳卒中の発症も増えており、全都道府県の中で脳血管疾患の死亡率はワーストです」(佐々木医長)。

 近年は脳卒中の中でも、血管が詰まる脳梗塞が多くなっています。脳梗塞の発症には喫煙や食事、大量飲酒などの生活習慣が深くかかわっており、生活習慣の改善こそが予防につながります。また、高血圧や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病を持つ人は脳梗塞後の再発や再再発を起こしやすいため、持病のコントロールも大切です。

 佐々木医長はまた、脳卒中を予防する方法としての脳ドックの活用について解説。3年前、秋田脳研に新たに導入されたCAVIという、血管年齢を計測する検査機器や、検査項目、結果の見方についても紹介しました。「脳ドックによって、脳腫瘍、大脳白質病変、症状の出ていない脳梗塞や脳出血、未破裂動脈瘤などが分かります。症状が出ていないものについて積極的な治療が必要かどうかは意見の分かれるところですが、血圧のコントロールなどによって悪化を防ぐこともできるし、経過観察をしていれば症状を起こした場合に早めに対処することもできます」(佐々木医長)。

 最後に佐々木医長は秋田脳研と県内の開業医と共同で実施している研究結果などを示しながら、「血圧が高ければ何か悪さをするということだけははっきりしています。良いと言われている生活習慣は実行し、悪いと言われていることはできるだけやめるようにすれば、脳卒中の発症率を下げられるはず。みなさん自身も食について考え、我々に提案してください」と締めくくりました。

秋田の食を題材に減塩をアドバイス

 基調講演の後半は、「食の専門家」として秋田県総合食品センターの熊谷昌則上席研究員が登壇。「生活習慣病予防は食生活の改善から」というテーマで、まず減塩や節酒、減量、運動といった生活習慣の改善に取り組めば血圧は下がることをデータとともに説明しました。

 食生活の改善で、熊谷氏が強調したのは「減塩」。ふだん口にしている身近な食材を例に挙げ、「漬物は一切れを細くする」「サケの切り身は辛口ではなく甘口を選ぶ」「ちくわやかまぼこなどの練り製品は下ゆでをすれば3〜7割減塩できる」「ラーメンはスープを残す」「醤油やハム、インスタント味噌汁などは、減塩タイプの商品が出ているので、それらを賢く利用する」「調味料として牛乳を利用する」など、さまざまな減塩の知恵を伝授しました。

 また、かつて塩分を増やす悪者のように言われていた味噌汁ですが、実は「適度な味噌の摂取は血圧を下げて血管年齢を若く保つ効果がある」と見直されているといいます。「味噌汁は1日3杯までなら大丈夫。さらに野菜で具だくさんにすれば、汁の量が減って減塩になり、食物繊維やミネラルをたっぷり摂ることができます」と熊谷上席研究員。

 さらに、減塩にとどまらず、「脳卒中を予防するには、野菜や果物、海藻、良質なたんぱく質をバランスよく摂取することが不可欠。秋田は、野菜、魚、肉がおいしいところですから、地元の食材を活用し、おいしく食べて健康に暮らしていきましょう」 と参加者に呼びかけました。
ホテルが調理し、秋田脳研が監修した「健康弁当」を食べながらの講習会は、参加者にも大好評

ホテルが調理し、秋田脳研が監修した「健康弁当」を食べながらの講習会は、参加者にも大好評

 熊谷上席研究員は講演の最後、店頭でよく見かけるようになった特定保健用食品(トクホ)にも言及。「血圧が高めの人用のトクホは多数出ていますが、そもそもトクホは健康な人が、健康を維持するためのもの。薬のような即効性はなく、適量を続けて摂取し続けなければ効果は望めません。治療が必要な病者のための食事療法ではないことを認識してください」 と釘を刺しました。


会場参加者から質問が続々

 基調講演の後に設けられた質問タイムでは、参加者から秋田脳研への脳ドックに関する要望や講演内容にかかわる質問が次々に寄せられ、鈴木センター長、佐々木医長、熊谷上席研究員の3人が丁寧に回答しました。熱心に講演に聞き入り、メモを取る多くの参加者の姿からは、「自ら学んで脳卒中を防ぐ」という意識の高さが感じられました。

 昨今、全国各地で脳卒中予防の講演などの啓発活動が頻繁に行われるようになりました。しかし、自分たちの生活に則した具体的な内容でなければ参考にしにくく、予防策の実践にはなかなか結びつきにくいものです。その点、地元秋田の脳卒中の現状や食事情など県民にとって身近な情報を題材にし、週1回というペースで参加型の健康教室を続けてきた秋田脳研の取り組みは、着実に県民の心をつかみ、脳卒中の予防意識を底上げしてきました。その原動力になったのは、「脳卒中になって困る人を一人でも少なくしたい」という、鈴木センター長ら秋田脳研スタッフの情熱です。こうした取り組みが、全国各地に広がっていくことを願ってやみません。

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