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脳卒中の今

心臓の病気が原因で脳梗塞に?
心原性脳塞栓症
(しんげんせいのうそくせんしょう)について知っておこう (2022/03/25)

 心原性脳塞栓症とは、心臓でできた血の塊(血栓)が血流に乗って脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせる病気です。突然発症して重症になりやすく、後遺症が残ることも多いことから、この病気の予防は重要な社会的課題にもなっています。心原性脳塞栓症とはどのような病気なのか、国立病院機構京都医療センター循環器内科部長の赤尾昌治先生に伺いました。

心原性脳塞栓症は、突然発症する「ノックアウト型」脳梗塞

 脳に血液を送っている動脈が詰まったり狭くなったりする脳梗塞は、3つのタイプに分けられます。1つ目は脳の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」、2つ目は脳の血管が動脈硬化により詰まったり狭くなったりする「アテローム血栓性脳梗塞」、3つ目は心臓の中にできた血栓が脳に運ばれ、脳の血管が詰まる「心原性脳塞栓症」です。統計的には、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症はそれぞれ約3分の1ずつの割合で発症していますが、高齢になるほど心原性脳塞栓症の割合が高くなります。超高齢化が進むなか、心原性脳塞栓症は増加傾向にあります。

 心原性脳塞栓症は、急激に症状が現れ、重症であることが大きな特徴です。一度発症すると約1割は亡くなり、救命できた場合でも、約半数は寝たきりか車椅子生活になるなど、重い障害が残ると言われています。元気だった人が急に要介護状態に陥るため、「ノックアウト型脳梗塞」とも呼ばれています。要介護状態に陥ると、医療費に加えて介護費用なども必要になり、患者にも家族にも肉体的、精神的、経済的に大きな負担がかかり、社会的負担も大きくなります。重症で予後が悪く、要介護になるリスクの高い心原性脳塞栓症をいかに防ぐかが、喫緊の課題となっています。

心原性脳塞栓症の最大の原因は心房細動

 心原性脳塞栓症の9割以上は、「心房細動」と呼ばれる不整脈によるものです。他に重症の心不全、心臓にできた腫瘍、心臓弁膜症などの病気が原因になることもあります。

 心房細動は、6:4くらいの割合で男性に多く見られます。60代で増加し始め、高齢者に多く見られるため、「心臓の老化現象」と捉えられています。動悸、めまい、胸痛、不快感などが起こることもありますが、症状が出ないことも多く、心房細動自体が命に関わるわけではありません。しかし、しばしば心原性脳塞栓症につながるという点で、できるだけ早期に発見したい重要な不整脈と言えます。

 通常、心臓は心房(心臓の上側の部屋)と心室(下側の部屋)が規則正しいリズムで収縮・拡張を繰り返して、ポンプのように血液を全身に送り出していますが、心房細動になると、心房が細かく不規則に震えた状態になります。すると、心房の中で血流が滞り、血の塊(血栓)ができます。こうして心臓にできた血栓は大きいものが多いため、これが血流に乗って脳へ運ばれると、脳の太い血管が詰まり、広範囲に障害が及んでしまいます。

■心房細動のイメージ

心房細動のイメージ

 心房細動は、ときどき起こる(発作性)人もいれば、ずっと起こりっぱなし(慢性)の人もいます。心房細動があれば必ず心原性脳塞栓症が発症するわけではありませんが、ときどきしか心房細動が起こっていなくても、心原性脳塞栓症が生じることがあります。現段階では、心房細動の頻度と心原性脳塞栓症のリスクがどの程度関係するのか明らかになっていません。日常の診療では、心房細動の患者に対して、「CHADS2(チャズ・ツー)スコア」と呼ばれる指標を使って心原性脳塞栓症のリスク評価を行っています。1点でもリスクがあれば、予防のために抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)を服用します。

CHADS2スコア:6点満点で、点数が高いほど高リスクとなる。

CHADS<sub>2</sub>スコア

発症後、いかに早く治療を開始するかがカギ

 心原性脳塞栓症を発症すると、脳の血流が途絶え、その瞬間から脳細胞が壊死していくため、治療は時間との闘いになります。発症直後の超急性期は、治療体制が整っている医療機関に一刻も早く搬送し、血栓を溶かす薬剤(t-PA=組織型プラスミノゲン・アクティベータ)を点滴投与する「血栓溶解療法」や、血管にカテーテルを挿入して血栓を取り出す「血栓回収療法」を行い、血流を再開します。血栓溶解療法も血栓回収療法も、重症度や発症からの経過時間によって、どちらを実施するか、そもそも実施できるかどうかが決まります。いかに早く治療を開始できるかが重要ですので、少しでも異変を感じたら、躊躇せずに救急車を呼ぶことが大切です。「FAST」(Face=顔の片側がゆがむ、Arm=片腕に力が入らない、Speech=言葉が出てこない・ろれつが回らない、このうち1つでも見られたら、Time=発症時刻を確認して急いで救急車を呼ぼう)という標語を覚えておくと良いでしょう。

 その後、入院中の薬物療法として、血栓をつくりにくくする抗血栓薬や、脳保護薬の投与も行います。重症度や病態を注意深く見極めながら、投与のタイミングや薬剤の選択を行います。薬物療法と並行して、できるだけ早くリハビリテーションを開始し、早期回復を目指します。

 退院後の慢性期は、心房細動の原因となる高血圧、糖尿病、高脂血症などの管理をしっかり行いながら、再発予防のために、血栓ができるのを防ぐ抗凝固薬を服用します。10年ほど前までは、抗凝固薬の選択肢はワルファリンという1種類のみでしたが、採血の結果に基づいて服用量の調整が必要になるほか、納豆や青汁など、ビタミンKを多く含む食品の影響で効果が下がるために食事の制限があるなど、使いにくい面がありました。2011年以降、こうした制限の少ない新しい抗凝固薬(DOACと総称される)が相次いで承認されています。

 再発予防のために抗凝固薬を飲んでも、体が楽になったり、症状が良くなったりするといった実感はありません。そのため、飲み忘れたり、自己判断で服用を中断したりする患者も少なくありません。抗凝固薬は、毎日服用すれば脳梗塞を約3分の1に減らせることが分かっており、効果の高い薬ですが、飲み忘れると脳梗塞のリスクが高まりますので、毎日欠かさず飲み続けることが重要です。

 一方、出血しやすい状態になるため、歯茎からの出血、鼻血、皮下出血(青あざ)が起こりやすくなります。こうした出血があっても、すぐに薬をやめずに、医師に相談することが大切です。ただし、命に関わる出血が起こる場合もありますので、激しい頭痛、吐血、血尿、血便などが出た場合はすぐに医療機関を受診してください。

心房細動の早期発見と生活習慣の改善で心原性脳塞栓症を防ぐ

心原性脳塞栓症を防ぐためには、原因となる心房細動を早期発見することが大切ですが、特にときどきしか起こらないタイプの心房細動は、見つけづらい疾患でもあります。心房細動を見つけるためには心電図検査が不可欠ですが、特定健診・高齢者健診には心電図検査が含まれていない場合もあります。人間ドックや、何らかの病気の治療の機会に、定期的に心電図検査を行うと良いでしょう。日常生活では、動悸や不快感など「少しおかしい」と感じたときに、脈拍に触れてリズムを確認してみることで、簡易的にチェックすることもできます。心拍の検知機能を持っている血圧計や、スマートウォッチなどの機器も進歩していますので、使える人は積極的に利用するのも1つの方法です。

 また、生活習慣も大切です。心房細動は、心臓の持病や高血圧など、心臓に関係する原因がある場合だけでなく、加齢、糖尿病、肥満、ストレス、アルコール、喫煙など、さまざまな原因が重なって起こりやすくなります。日頃の生活習慣に気をつけて、こうしたリスク要因を1つでも減らすようにしたいものです。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、外出を控えて家に閉じこもり、体重増加や運動不足で生活習慣病が悪化している高齢者が多く見られます。感染対策を行いながら、適度に運動する、気分転換を図るなど、生活習慣の改善に努めましょう。

予防や発症時の対応は、正しい知識を持つことから

国立病院機構京都医療センター循環器内科部長の赤尾昌治先生



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