脳卒中は、偏った食事や運動不足、ストレス、喫煙、過度の飲酒といった生活習慣の乱れと、その延長線上にある高血圧や糖尿病、脂質異常症、心臓病などの病気が大きな原因になっています。こうした危険因子は合併することも多く、2つ3つと重なるにつれ、脳卒中の発症率はぐっと高まります。そのため脳卒中を防ぐには、食事を中心とした生活習慣の改善が不可欠です。
脳卒中の直接の原因は、高血圧です。血圧を甘く見てはいけません。脳ドックを受けた際に異常がなくても、油断は禁物です。
ミッドタウングループ
東京ミッドタウン 平石貴久特別外来
医師 平石貴久(ひらいし・たかひさ)
1950年鹿児島県生まれ。東京慈恵医科大学卒業。専門は内科、循環器科、スポーツ医学。スポーツ選手の健康管理や勝つためのコンディショニングを担当し、日本を代表する多数のチームや選手の健康管理、有名ミュージシャンたちのコンサートドクターとしても活躍。「医者以前の健康の常識」(講談社)、「名医が教える病気にならない健康の新常識」(あさ出版)など著書多数
●表1:塩分を控える12カ条
1 | 薄味に慣れる |
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塩味の薄い食事に慣れることが第一歩です。昆布やかつおぶしなどで、だしをとると薄味でも風味豊かにおいしく食べることができます。また、新鮮な食材を利用して、薄味で素材の味を楽しむのもよいでしょう。 | |
2 | 漬け物・汁物の量に気をつけて |
塩分の多い漬け物や汁物は、食べる回数と量を減らしましょう。漬け物は浅漬けか、塩出ししたものにします。汁物では野菜などの具の多いものにすれば、1回にとる汁の量が少なくなります。麺類を食べるときは、汁は残すようにします。 | |
3 | 効果的に塩味を |
献立にはいろいろな味付けを利用し、塩味は効果的に使うようにしましょう。塩は食品の表面にさっとふりかけると少なくても塩分を感じることができます。 | |
4 | 「かけて食べる」より 「つけて食べる」 |
しょう油やソースなどは、かけて食べるより、つけて食べたほうが塩分の摂取量が少なくてすみます。 | |
5 | 酸味を上手に使いましょう |
酸味を上手に使って、献立の味付けに変化をつけると、塩分を減らすことができます。レモン、スダチ、カボスなどの柑橘類や酢などを和え物や焼き物に利用しましょう。 | |
6 | 香辛料をふんだんに |
トウガラシやコショウ、カレー粉などの香辛料を上手に使って味付けに変化をつけるのも、塩分を控える工夫の1つです。 | |
7 | 香りを利用して |
ゆず、シソ、ミョウガ、ハーブなどの香りのある野菜、海苔、かつお節などを加えると、薄味のメニューに変化もつきます。 | |
8 | 香ばしさも味方です |
香ばしさもまた塩分のとりすぎを抑えてくれます。焼き物にする、炒った胡麻やくるみなどで和えるなど、調理に利用しましょう。 | |
9 | 油の味を利用して |
揚げ物、油炒めなど、油の味を利用して食べるのもよいでしょう。ゴマ油やオリーブオイルを、食べる前に少しかけることで風味が増し、おいしく食べられます。ただし、脂質のとりすぎにならないように、油を使ったメニューばかりにならないよう気をつけましょう。 | |
10 | 酒の肴に注意 |
酒の肴に合う料理は塩分が多く含まれるものが多いので、少量にしましょう。 | |
11 | 練り製品・加工食品には気をつけて |
かまぼこ、はんぺん、薩摩揚げなど魚の練り製品や、ハムやベーコンといった肉の加工食品も塩分の多い食品です。食べる量に気をつけましょう。 | |
12 | 食べすぎないように |
せっかくの薄味の料理でも、たくさん食べれば塩分の量もカロリーも多くなります。食べすぎないように気をつけましょう。減塩しょう油や減塩みそも、使う量が多ければ塩分も増えます。使いすぎては意味がありません。 |
出典:厚生労働省「高血圧を防ぐ食事」
ただしコレステロールは、私たちの体を形作る細胞膜の強度を保ち、内臓機能を保持するステロイドホルモンの材料になるなど、体にとって欠かせない成分でもあり、やみくもに摂らないようにすればいい、というものではありません。
脂肪量全体の摂り過ぎに注意し、特に肉の脂身やバターなどの摂取は控えめにします。調理には、LDLを回収して血栓ができるのを防いでくれる善玉コレステロール(HDL)が豊富な不飽和脂肪酸(コメ油・ダイズ油・コーン油・魚油など)や植物油を使ってください。また、イワシやサンマなどの青魚には、血中の中性脂肪濃度を低くして血栓を溶かす役割を果たすエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)といった多価不飽和脂肪酸がたくさん含まれています。献立に取り入れるといいでしょう。
●表2:食物繊維総量の多い食品ベスト10
食品100g当たりの食物繊維総量の含有量
1 | ゆでインゲン豆 13.3g |
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2 | ゆであずき 11.8g |
3 | ゆでひよこ豆 11.6g |
4 | おから 11.5g |
5 | エシャロット 11.4g |
6 | シソの実 8.9g |
7 | 中国グリ 8.5g |
8 | ヨモギ 7.8g |
9 | ゆでエンドウ豆 7.7g |
10 | ゆで紅花インゲン 7.6g |
出典:文部科学省「日本食品標準成分表」
脳卒中の中でも脳梗塞は真冬に多く発症すると言われますが、冬に次いで夏にも発症のピークがあります。これから迎える夏は汗をかきやすいので、それに見合った水分を摂らないと血液中の水分が減って固まりやすくなってしまうからです。通常1日の水分の必要量は2.4リットル。このうち食べものから約1リットルが摂れるので、飲み物として1~2.5リットルを飲む必要があります。汗をかいたときはさらにプラスして摂るようにしてください。血液中の水分量をある程度一定に保つために、一気飲みするのではなく、1回にコップ1杯程度を起床時や3度の食前、食事中、のどが渇いたときなどにこまめに飲むようにするといいでしょう。
また、睡眠中は水分の補給ができないため、健康な人でも血液の濃度が上がり、脳梗塞を起こしやすくなりますが、寝る2時間前に水分を摂るようにすれば、胃に負担がかかることはありません。
食事は効果が高い脳卒中予防策ですが、ウオーキング、ジョギング、自転車、水泳などの有酸素運動を継続して行い、運動不足を解消することも心がけてください。そして過労と睡眠不足を避けること。糖尿病持ちの方の場合、脳卒中予防のためには、日々の血圧管理を怠らないこと。そして、過労を防ぎ、十分な睡眠をとることが大切です。
「高血圧治療ガイドライン2014」では、成人の血圧値に「正常」を、「収縮期血圧129mmHgまで、拡張期血圧84mmHgまで」としています。また、食塩摂取量の目標値として、1日6g未満としています。「国民生活・栄養調査(平成29年)」では、食塩摂取量は男性10.8g、女性9.1gとなっています。