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脳卒中インタビュー

松本昌泰・広島大学大学院教授

松本昌泰・広島大学大学院医歯薬保健学研究院
応用生命科学部門脳神経内科学・教授に聞く

脳卒中発症予防の7つの危険因子
—6年ぶりに改訂された“脳卒中ガイドライン”に学ぶ

( 2015/10/26 )

松本昌泰(まつもと・まさやす)

1976年大阪大学医学部を卒業。84年米国メイヨークリニック留学。97年大阪大学講師、99年大学院助教授を経て、2002年広島大学大学院教授に就任。12年から広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授(脳神経内科学)。世界脳卒中学会、日本脳卒中学会、日本脳循環代謝学会など多数の学会の理事を務めている。

ポイント

  • 団塊の世代(1947年~49年生まれ)が脳卒中を多く発症する時代に突入した。
  • 詰まり、破れるといった脳血管の障害は脳卒中のほかに認知症の原因にもなる。
  • 一般社団法人日本脳卒中学会が定める脳卒中ガイドラインが今年、6年ぶりに改訂された。
  • 発症の予防のためには高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、飲酒、炎症マーカーの7つの危険因子を積極的に管理することが大切。

 脳卒中は致死率も高く、たとえ命が救われても後遺症が問題になる病気です。できることならば予防したいもの。最新の脳卒中ガイドラインが示す医学的な根拠がある発症予防法をガイドラインの作成委員を務めた広島大学大学院教授の松本昌泰先生に伺いました。

中高年にとって脳卒中は大変怖い病気です。患者さんはどれくらいの割合で増えているのですか?

 脳卒中には脳の血管が詰まる脳梗塞や血管が破れ出血する脳出血があります。血栓性脳梗塞は脳血管の動脈硬化が主な原因となりますが、脳塞栓(のうそくせん)は心臓の心房などに形成された血栓が遊離し脳の血管に達し詰まる病気です。脳血管の出血には、脳出血とクモ膜下出血があります。こうした大発作はよく知られていますが、小さな血管の梗塞なども認知症の原因になりますので、自覚症状がなくても日ごろの血圧のコントロールが大切になります。

 脳卒中を発症する患者さんの数は非常に多く、世界では計算上2秒に1人の割合で発症し、6秒に1人の割合で脳卒中が原因で死亡しています。また、世界では4秒に1人が認知症を発症しています。

 脳卒中にかかりやすくなる要因を“脳卒中の危険因子”といいますが、最大の危険因子は“加齢”と“高血圧”です。団塊の世代がこれからの10年間で75歳以上になります。脳卒中のリスクが急激に増える年代に当たりますから、社会問題として取り組む必要があります。しかし、加齢をコントロールすることはできませんから、必然的に血圧を適切な範囲に保てるかどうかが最も重要な課題になります。

脳卒中治療ガイドラインが今年、改訂されたとのことですが、脳卒中治療ガイドラインとはどのようなものですか。

 脳卒中の診療にあたる医師が中心となって日本脳卒中学会が組織されています。最新の研究成果を公開し、脳卒中医療の向上をはかる学術団体ですが、最新の研究成果をもとに、医師が日常診療にどのように取り組むべきかを定めたものがガイドラインです。研究の進歩や医療体制の変化に応じて随時、内容が改訂されます。前回の改訂は2009年でしたから、「脳卒中治療ガイドライン2015」は6年ぶりの改訂となります。今回の改訂は、日本脳卒中学会のガイドライン委員会を中心に、日本脳神経外科学会、日本神経学会、日本神経治療学会や日本リハビリテーション医学会などの関連学会の協力により行われました。

高血圧を絶対、放置しない

ガイドラインに記載されている「発症予防」について教えてください。

 脳卒中の発症の原因となる主な危険因子としては、加齢に加え、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、飲酒、全身の高い炎症状態(※)があります。
※炎症は赤くはれたり、その部位にだけ熱が出る状態をイメージしますが、血管の組織が傷害されると軽い炎症状態が続くことになります。こうした軽い炎症は自覚症状がないままに時間の経過とともに全身の組織をむしばむことになり、やがては脳卒中の原因になります。

 最大の危険因子はやはり高血圧です。血圧値が高ければ高いほど、脳卒中が発症しやすくなります。過去に実施された研究から、下の血圧(拡張期血圧)を3~5年の間に5~6mmHg下げるだけで、脳卒中の発症率は42%減少することが明らかになっています。血圧を下げることは最も効果的な脳卒中の予防法です。

 実際に患者さんの協力を得て実施した過去の臨床研究から、目標血圧値を前回までは「130/85mmHg未満(若年・中年者)」としていましたが、今回のガイドラインでは「140/90mmHg未満」と近年の臨床研究の結果を反映して少し緩和されました。

 糖尿病は後で説明するように血管を傷める病気ですが、糖尿病患者さんの場合はやや厳しく、2009年のガイドラインと同様に「130/80mmHg未満」としており、こちらは変わりません。

日ごろからの血圧の管理が重要というわけですね。

 その通りです。日本は精度が高い家庭用血圧計が広く普及している世界的に稀な国です。血圧が高めの人は、異常が自覚されなくても、ぜひ家庭用血圧計を利用して、継続的に血圧を管理していくことをお勧めします。

 一方、高齢者の基準はやや緩やかなものになっています。75歳以上の後期高齢者の場合は、前のガイドラインで「140/90mmHg未満」としていた降圧目標は緩和されて「150/90mmHg未満」になりました。

 80歳以上の高齢者で上の値が160mmHg以上の人を対象にした研究で、150/80mmHg未満を目標にして治療を続けたところ脳卒中の年間発症率が約30%減少したという結果が得られています。

 しかしあまりにも厳格な血圧管理は高齢者には大きな負担を強いることになるということ、さらに高齢者では個人差が大きくなるということを考慮して、主治医の先生と話し合って降圧目標を決定するとよいでしょう。

糖尿病では血圧と脂質の管理を厳しく

 中高年になって発病する糖尿病の多くはインスリンの働きを感じにくくなる2型糖尿病です。2型糖尿病の患者さんの場合、血糖の管理に最も苦労されていると思いますが、血糖の管理そのものが脳卒中を予防するというはっきりとした因果関係は明らかになっていません。しかし、糖尿病の患者さんでは先ほど説明したように血圧の管理をより厳格に行うことが大切です。また脂質管理も糖尿病の方はそうではない患者さんに比べ、厳しく行う必要があります。


 血液中の脂質は血管を詰まらせる原因になり脳梗塞が発症する危険性が高くなります。総コレステロール値が1nmol/L(38.7mg/dL)増えると脳梗塞の発症率が25%増加することが明らかになっています。


 血清脂質を減少させる薬にスタチン(HMG−CoA還元酵素阻害薬)というグループの薬がありますが、脂質異常症患者にスタチンを使って治療した場合、脳卒中の発症頻度が23%低下するとの報告があります。血圧と血清コレステロールの値を適宜計測し、脳卒中の発症リスクを軽減する注意を怠らないようにしたいものです。



心臓病と密接な脳梗塞

ガイドラインでは心臓病である心房細動の患者では脳梗塞のリスクが高くなることを理由に、薬物を使った心臓病の治療を推奨しています。どのような理由からですか。
 問題となるのは心房細動(なかでも非弁膜症心房細動;NAVF)です。加齢により増加するNAVFでは心臓の心房に生じた血栓が脳血管に飛び、脳梗塞につながります。NAVF患者の平均5%が毎年、脳梗塞を発症しています。NAVF患者の場合、血液凝固を減らす薬物治療を行うことによって脳梗塞の発症を減らすことができます。こうした治療には昔からワルファリンという薬剤が使われてきましたが、時に頭蓋内出血という副作用を起こすことが問題でした。ワルファリンの使用に配慮することが重要ですが、ここ数年安全な薬剤グループ(非ビタミン系阻害経口抗凝固薬;NOAC)が登場し、治療がさらに安全に行われるようになってきました。
喫煙、飲酒について注意すべき点を教えていただけませんか。
 喫煙は脳梗塞・クモ膜下出血の危険因子ですのでやはり禁煙が望ましい。また受動喫煙も脳卒中の危険因子になりますので、受動喫煙を回避してください。飲酒は大量飲酒の習慣が発症リスクを高めるのですが、少量から中等量の飲酒(アルコール1〜149mg/週、ビール350mLを1本として毎週6本程度が目安)では脳卒中の発症率が低下することが知られています。450mg/週以上の大量飲酒では全脳卒中の発症率は68%増加し、とくにクモ膜下出血が急増します。脳卒中予防のためには飲酒は中等量にとどめたいものです。
今回のガイドライン改訂では、「炎症マーカー」の項目が新規に追加されています。これはどういうものですか。
 健康診断の結果をみると「CRP値」という項目がありますね。これは全身の炎症状態を把握する指標となる値です。このCRP値が上昇すると、言い換えれば炎症状態が強くなると、脳梗塞が発症しやすくなることが最近、明らかにされました。CRP値が高値と判断された方は、禁煙し肥満の是正など生活習慣の改善とともに必要に応じて炎症抑制効果が知られているスタチンなどを利用することを考慮すべきでしょう。

発症前の自己管理と脳ドック

 脳卒中は予防することが大変重要です。しかも血圧を管理することによって十分に予防が可能な病気です。発症していなくても、50歳を超える方の脳には微小な出血が見られることも多く、これが認知機能の低下につながることもあります。できれば、高血圧、糖尿病の患者さんはこの段階で生活習慣を見直し、医療機関にかかり血圧や脂質の治療を受けるとよいでしょう。


 心配な方は脳ドックを受診することもよいでしょう。一般社団法人日本脳ドック学会のホームページには、知識、技量について専門家によるチェックを受けた脳ドック医療機関のリストが掲載されていますので、ぜひ参考にしてほしいと思います。

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