※この技術は、2020年から選定療養へ移行しました。
加齢とともに罹患率が増える白内障。70代の約半数、80代ではほぼ全員が白内障になっているとも言われています。加えて、アトピー性皮膚炎や糖尿病などの合併症として、若年で発症する人も増加しています。
白内障とは水晶体が濁る病気です。水晶体とは、目をカメラに例えた場合にレンズに相当する部分。水晶体の中身はたんぱく質と水分からなる透明な組織ですが、この透明なたんぱく質が変性し水晶体が濁ると、光がうまく通過できなくなり乱反射し、その結果、網膜に鮮明な像が結べなくなり視力が低下します。
日常生活に支障がない程度の白内障であれば、そのまま経過をみるのでかまいません。残念ながら、点眼薬や内服薬は症状を改善したり、視力を回復させる効果がありません。そのため、白内障が進行して日常生活に不自由を感じるような場合には、手術が必要になります。白内障の手術は極めてポピュラーな治療で、日本での実施は年間100万件ほど。考えられうる合併症として、統計学上2000〜3000人に1人に眼内炎という感染症を発症しますが、白内障の手術の経験がある保険医療機関であれば、まず問題はないでしょう。
白内障の手術は、濁った水晶体を超音波で砕いて取り出し(超音波水晶体乳化吸引術)、人工のレンズ(眼内レンズ)を入れるという方法が普及しています。局所麻酔をしたうえで行われるため、手術中の痛みはほとんどありません。また、手術時間は15〜30分程度です。
眼内レンズには、標準的な治療法として普及している単焦点眼内レンズと、単焦点眼内レンズを改良した多焦点眼内レンズがあります。単焦点眼内レンズは遠方か近方のどちらか1点にのみ焦点が合うというもの。遠方に焦点を合わせると、老眼ではない患者でも、単焦点眼内レンズによる白内障治療を受けた後は、近方を見るために老眼鏡が必要となります。
単焦点眼内レンズを入れた場合は、上の写真のように、遠くの景色ははっきり見えますが、近くのバス停の経路図が読めません。多焦点眼内レンズを入れると、下の写真のように、 遠くの景色も近くのバス停の経路図も読むことができます。
(写真提供:東京歯科大学水道橋病院眼科・ビッセン-宮島弘子教授)
一方、多焦点眼内レンズでは、遠方と近方の両方に焦点を合わせることが可能です。すなわち、多焦点眼内レンズによる白内障治療を受けることで、結果的に老眼も治ってしまうのです。若い人が糖尿病などによって白内障になった場合、それまではどの距離もピントを合わせて見ることができたのに、手術後は老眼になってしまい、急に不便な生活を強いられてしまいます。高齢者はもともと老眼だったとしても、ゴルフでボールは見えるけどスコアカードが読めないとか、タクシー運転手が運転には支障がないけど領収書が読めないといった困った状況は多いものです。そんな、クオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)の改善に貢献するのが多焦点眼内レンズなのです。
ただし、多焦点眼内レンズを挿入した場合、単焦点のような良好なコントラストではなく、少しかすんで見えると言う人がいます。中には、治療後に「ぼやける」「見えにくい」などと訴える患者もいるようです。実は、多焦点眼内レンズは約20年前から販売されていました。ただし、旧型のレンズは眼内挿入のために強膜(白目の部分)を6〜7mm切開しなければならず、角膜が歪んで乱視になるリスクが高いという問題がありました。また、暗所で光をまぶしく感じたり、にじんで見えるというグレア・ハロー(注)が生じやすくもありました。
(注)グレア・ハローとは、眼内レンズを挿入した際に起こり得る合併症の1つ。強い光を見た時にギラギラとまぶしく見えるのが「グレア」で、光の周辺に輪がかかって見えるのが「ハロー」。個人差はあるが、手術後の時間経過とともに慣れてくると言われている。多焦点眼内レンズの方が単焦点眼内レンズに比べて高いことが報告されている。
それらの問題点を解決したのが、2007年に新しく国内で販売が承認された新型の多焦点眼内レンズです。アクリル、またはシリコンの素材で軟らかく、折り曲げて挿入できるので、切開創が2〜3mmで済み、手術後の乱視のリスクが下がりました。また、レンズの仕組みの改良でグレア・ハローも軽減しています。この国内の承認に向けて臨床データを集め、研究に尽くしたのが、東京歯科大学水道橋病院眼科のビッセン-宮島弘子教授です。同院は08年、「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術(白内障に係るものに限る)」という先進医療が受けられる認定施設の第1号となりました。
単焦点眼内レンズによる白内障治療は保険適用となっているため、治療費は3割負担で約4万円程度(片眼)です。一方、多焦点眼内レンズは保険適用となっていません。ただし、1年以上の治療経験などの要件を満たした眼科専門医がいる医療機関では先進医療として認められています。ただし、多焦点眼内レンズの費用などに公的な保険が効かないため、治療費は約30万〜40万円程度(片眼)となります。
多焦点眼内レンズを用いた白内障の治療で先進医療の認定を受けている医療機関は、全国に100カ所あり(3月1日現在)、今後も増えると予想されます。また、白内障の治療ではなく、老眼の治療を目的に多焦点眼内レンズの挿入を行っている医療機関もあり、そのような場合は自由診療となり、治療費は約35万〜60万円(片眼)とさらに高額です。
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