医学・医療最前線

内視鏡で早期大腸がんを治療する( 2010/10/29 )

 食生活や生活習慣の欧米化により、日本人の大腸がんが増加しています。既に、2cm以下という小さな早期大腸がんは内視鏡で治療することが可能ですが、新しい技術により、これまで内視鏡治療が困難とされていた2cmを超える表面型(平坦な)のがんであっても、内視鏡で治療できるようになってきました。

 2009年6月、厚生労働省は「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)」を大腸がんに対する先進医療として承認しました。2010年10月現在、許可第1号の岡山大学病院をはじめ、全国61カ所の医療施設でこの治療が実施されています。ESDとは、内視鏡の先端から特殊なメスを出してがんの周囲の粘膜を切り開き、がんをはがし取る治療法のことです。

 ESDは2006年4月に早期胃がんを対象と治療法が、2008年4月には早期食道がんを対象とする治療法が、保険適用となっています。しかし、大腸は胃や食道に比べて腸管の壁が薄く、技術的な難易度が高いことなどを理由に保険適用になっていませんでした。大腸がんに対するESDが先進医療として認められたことで、ESD自体の医療費は自己負担ではありますが、検査などは保険診療で受けられるようになったのです。

2cmを超える大腸がんも内視鏡で治療可能に

 実はESDという治療法を使わずとも、病変の大きさが2cm以下の早期食道がん、早期大腸がんは、内視鏡による治療法が既に普及しています(胃がんはほとんどがESDで治療されています)。これは同じ内視鏡による治療でも、内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic Mucosal Resection)と呼ばれ、がん組織が粘膜内に留まり、病変が2cm以下の場合に適応されます。

 粘膜に発生した病変がくびれていたり、茎を持ったものであれば、そのくびれや茎にワイヤーを引っ掛けて切除するポリペクトミーという方法で切除可能であり、平坦なものや陥没しているものは、生理食塩液などの液体を粘膜下層に注入し、浮き上がった病変を金属の輪に引っかけて切除するEMRが適用されます。しかし、これらの方法では、大きな病変は一度に切除できず、周辺にがんが残り再発しやすいという問題がありました。

  ESDの手技の流れ


ESDの手技の流れ

 このEMRの弱点を克服したのがESDです。ESDは、治療前に拡大内視鏡などを用いた詳細な内視鏡診断にて、病変が粘膜下層浅層より深く達していないことを確認したうえで施行することが重要です。病変部の粘膜下層に専用の液体を注入して病変を浮かせ、その周囲の粘膜を切開します。その後、粘膜下層を筋層からはぎ取るように、高周波ナイフ(特殊な電気ナイフ)を用いて病変の周囲を剥離して一括切除します。ただ、ESDの対象は病変が粘膜層にとどまっている早期がんです。リンパ節は切除できないため、リンパ節転移が疑われる場合は内視鏡治療の適応とはなりません。

 このESDという方法によって、EMRでは一括切除できなかった大きな病変を取り残しなく切除することが可能となりました。また、がんが一塊で取り出せるため、がん組織の取り残しのリスクも低くなりました。加えて、がんの深さ(深達度)や血管・リンパ管への浸潤を術後の病理診断で正確に行うことが可能です。

 EMRに比べてメリットの多いESDですが、EMRよりも大きく組織を切除するため、出血や穿孔のリスクがあり、医師の手腕が問われる治療法です。特に大腸は、腸管の壁が薄いために穿孔のリスクは胃よりもさらに高くなりますし、もともと内視鏡の操作自体が胃より難しいのです。



 そこで、日本消化器内視鏡学会では、先進医療としての大腸がんのESDは「日本消化器内視鏡学会の専門医の資格を取得した医師が治療を行うこと」と定めています。今後保険申請する場合には、学会が認定した専門医の手掛けた症例を集めて、学会からもまとまった結果を提出する予定であり、保険診療としての認定が期待されるところです。

治療時間は平均1時間程度、困難例では3時間程度かかる場合も

「いずれはESDも日帰りでできるのでは」と抱負を語る国立がん研究センター中央病院・消化管腫瘍科(消化管内視鏡科)の斎藤豊副科長

「いずれはESDも日帰りでできるのでは」と抱負を語る国立がん研究センター中央病院・消化管腫瘍科(消化管内視鏡科)の斎藤豊副科長

 この難易度の高い大腸がんのESDを日本で最も多く手掛けるのが、国立がん研究センター中央病院(以下、がんセンター)の消化管内視鏡科です。ここでは年間約420例の早期大腸がんを内視鏡で治療していますが、そのうちESDが実施される症例は約120件で、残り約300件がEMRとのこと。「ESDの割合が多いと思われるでしょうが、がんセンターは病院の性格上、全国から紹介状を持った患者さんが多くいらっしゃるのでこれだけの症例になります。通常、早期大腸がんの中でESDが必要な割合は5%以下とも言われています。ESDは技術的に難しい手技ですので、がんセンターが多く手掛けているように、現時点ではESD手技のセンター化が必要でしょう」と、がんセンターにおける大腸がん治療の筆頭医師である消化管腫瘍科(消化管内視鏡科)の斎藤豊副科長は説明してくれました。

 

 加えて、「2cmを超える大腸がんでESDを受けたいと紹介状を携えた方でも、がんセンターであらためて検査をした結果、がんの悪性度などによりEMRで可能な場合もあるし、EPMR (Endoscopic Piece Mucosal Resection)という分割切除という手術で済む場合もあります」と、大きい病変だからといってすべてESDでやるのではなく、術前診断の重要性を強調します。

 がんセンターでは、大腸がんのESDの治療に4泊5日の入院が必要です。初日は腸内を空っぽにするための特別食を食べます。2日目にESDの治療、その翌日は念のため絶食、治療後2日目からは普通食です。退院翌日から、それまでの日常生活に戻れます。先進医療としての技術料は20万円で、入院や検査に伴う費用は公的医療保険の適用となります。

 実際の大腸がんのESDの治療時間は、平均1時間程度。病変が小さいと15分ほどですが、10〜15cmの大きいものは3時間くらいかかる場合もあるそうです。治療中は軽い静脈麻酔を使い、医師の指示を受けて体の向きを変えたり、治療の様子をモニターで見せてもらうこともできます。痛みなどはほとんど感じることはありません。

 通常、大腸がんのEMRでは数分から15分ほどの治療時間ですから、がんセンターでは外来での対応となります。ESDはEMRより時間がかかり、入院は必要となるものの、内視鏡治療以外の選択肢となると、腹腔鏡による手術です。手術ではお腹に傷がつくため、内視鏡による治療に比べて患者への負担は大きくなります。

 患者数が急増している大腸がんですが、早期に発見できれば、体への負担の少ない内視鏡で治療でき、完治します。一方で、便鮮血による検診は進行がんを対象としているため、早期の大腸がんを発見することは難しいということを知る必要があります。極力早期に発見できるよう、人間ドックなどを積極的に利用し、内視鏡による大腸がん検診を定期的に受けたいものです。

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