医学・医療最前線

C型肝炎に対する効果の見込めないインターフェロン投与を回避( 2010/11/30 )

※この技術は、2016年から先進医療をはずれ、自由診療となりました。

 C型肝炎は、一度C型肝炎ウイルス(HCV)に感染すると慢性化しやすく、静かに炎症が続いた後に、肝硬変や肝細胞がん(肝がん)を引き起こす厄介な病気です。1992年に治療薬のインターフェロンが保険適用されましたが、インターフェロンの効果がある体質の人と効果がない体質の人がいて、治療してみないとどちらの体質か分からないことが問題でした。そんな中で昨年、体質の差を決めるIL28Bという遺伝子が発見され、この遺伝子を検査することで、効果が期待できる人がより効果的な治療を受けることができるようになったのです。検査は先進医療(IL28Bの遺伝子診断によるインターフェロン治療効果の予測評価)として承認されており、遺伝子を発見したグループの1つである名古屋市立大学病院で受けることができます。

 日本国内のHCVの感染者は200万人ともいわれ、その約6〜8割が慢性肝炎に移行、その後肝硬変、肝がんへと移行しています。肝がんは、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がんと併せて日本の5大がんに数えられ、毎年約2万5000人が亡くなっています。

肝がんへ移行するC型肝炎の治療に福音をもたらしたインターフェロン

 とはいっても、全く希望がないわけではありません。それまで増加していた肝がんによる死亡者数が、08年から減少に転じているのです。その理由は、92年に日本でC型肝炎の治療薬として使われるようになったインターフェロンが効果を発揮するようになったからです。それまでは、炎症を抑えることしか対処法がなかったのですが、インターフェロンはHCVを消滅させることでC型肝炎の根治を可能にしたのです。治療する術もなく肝硬変や肝がんに移行する運命を甘受するしかなかった患者にとって、まさしく福音といっていい治療法の登場でした。

 しかし、治療効率は決して高いといえるものではありませんでした。HCVには、インターフェロンが効きにくい1型ウイルスと、比較的効きやすい2型ウイルスが存在します。不幸なこと日本国内では難治性の1型HCVが多数派でした。1型のウイルスが体内にたくさんいる場合は、インターフェロンの有効率は2〜5%とされています(2型は約20%)。インターフェロンの治療費は高額で、治療効率の低さは社会問題にもなりました。それでも、その後インターフェロン治療に様々な改良が加えられ、治療成績は徐々に向上していきました。

 例えば、04年に登場した「ペグ・インターフェロン+リバビリン併用療法48週間投与」という治療法では、1型高ウイルス量の患者の60%、2型高ウイルス量の患者の90%以上でHCVを排除することができるようになりました。ペグ・インターフェロンとは、インターフェロンに特別な高分子化合物を結合させて、効き目を長くしたインターフェロンのことです。これにインターフェロンとは違った作用メカニズムを持つ抗ウイルス薬のリバビリンを併用することによって、治療成績が飛躍的に向上したのです。

 それでも、1型高ウイルス量の患者の40%は、HCVが体に残ります。ここがこの治療の悩ましいところでした。というのも、患者は48週間、つらい副作用を我慢して治療を受けたにもかかわらず、効果は一過性か、あるいは全く出ないこともあるのです。しかも、医療費は3割負担するだけでも100万円近くかかります(08年4月から治療費の一部公費負担事業が始まり、納税額によって軽減されるようになりました)。

  医療費助成金額


医療費助成金額

B型・C型肝炎でインターフェロン治療を受けている患者は世帯当たりの市町村民税額に応じて、治療費の自己負担限度額が軽減する

 そこで登場したのが、IL28B遺伝子検査です。

 名古屋市立大学ウイルス学分野の田中靖人教授と世界の3つの研究グループは昨年、C型肝炎のインターフェロンによる治療成績の善し悪しは患者の末梢血液を検査することで分かるIL28B遺伝子の微妙な構造の違いに起因していることをつきとめました。



遺伝子の微妙な違いを調べてインターフェロンの治療効果を事前に把握

 検査の結果、インターフェロンが効きにくい体質(マイナー型)だと分かった場合、医師は「あなたのIL28B遺伝子を調べたところマイナー型でした。日本人の場合はマイナー型がメジャー型に対して30人に1人の割合ですが、残念ながらインターフェロンでは効果がありません」と伝え、効果の見込めないインターフェロン治療をせずに、別の治療法を薦めることができるようになりました。もちろん、メジャー型であれば、自信をもってインターフェロン治療を薦めます。

「ペグ・インターフェロン+リバビリン併用療法」の治療効果を
予測評価する手順

「ペグ・インターフェロン+リバビリン併用療法」の治療効果を予測評価する手順

 もともとインターフェロンは人間をはじめとする多くの動物に備わるウイルス防御物質で、それを増やしてやることによってHCVを除去するということがこの治療法の原理です。IL28Bという遺伝子の働きは現在のところよくわかっていません。この遺伝子に変異が入ることで、なぜウイルスの除去効果に違いが出てくるのかも、現在のところ不明です。

 

 さらに、「ペグ・インターフェロン+リバビリン併用療法48週間投与」を上回る治療法が近く登場する予定です。これはペグ・インターフェロンとリバビリンに加え、HCVのプロテアーゼという部分を攻撃する薬剤の3剤を使う治療法で、上述の2剤併用の治療法をはるかに上回る効果が認められているそうです。この希望あふれるC型肝炎治療法にも、IL28B遺伝子が関係するらしいことが、最近明らかになりました。

 なお、IL28B遺伝子検査は、先進医療の実施施設として唯一認定されている名古屋市立大学病院で受けることができます。検査費用は1回2万2000円です。

バックナンバー

メタバースで希少がんの若い患者さんを支援
がんだけをピンポイントに壊す「第5の治療法」光免疫療法
不育症の原因を調べて患者のケアに繋げる「流産検体を用いた染色体検査」
離れた場所から熟練の専門医が手術を支援「手術支援ロボットを用いた遠隔手術」
世界初、iPS細胞により脊髄損傷を治療する臨床研究
がん治療薬「オプジーボ」の治療効果を早期に予測できる最新の検査法
不妊治療の流れと種類大切なのは二人で取り組むこと
妊娠・出産を希望する乳がん患者さんへのアドバイス
骨粗鬆症の予防と骨折後の対処
MRIによる乳房の検査を有効に活用しましょう
アルツハイマー病の予防~先制医療確立の試み
働く女性の難敵、閉経期高血圧に挑む
乳がんのラジオ波熱焼灼術で早期がんを治す
車椅子患者に希望与える脊髄再生術
内視鏡手術で難治性腰痛の原因を取り除く
腹腔鏡下で、早期子宮体がんを低侵襲で治す
がんを凍死させ、自分の骨で欠損部を再建する
家族性アルツハイマー病の遺伝子診断
脳放射線壊死によって生じた浮腫を分子標的薬で治療
お腹の赤ちゃんを救う双胎間輸血症候群への子宮内レーザー治療
“見張り”リンパ節の観察で胃がんの切除範囲を的確に決定
膵島移植で1型糖尿病の完治を目指す
難病の脂肪萎縮症を救うレプチン補充療法
内科的治療で体重をコントロールできない高度肥満者への減量手術
C型肝炎に対する効果の見込めないインターフェロン投与を回避
内視鏡で早期大腸がんを治療する
再燃した前立腺がんの一部に有望ながんワクチン
赤ちゃんを包む羊膜が失明回避に大活躍
うつ病の客観的な診断を目指す光トポグラフィー検査
骨折の治療期間を3〜4割早める「超音波骨折治療法」
ロボットが手術する前立腺がん摘出術
一人ひとりの体質に合わせた除菌率100%の「ピロリ除菌療法」
白内障と同時に老眼も治療できる「多焦点眼内レンズ」
重度の尿失禁を治す唯一の治療法「人工尿道括約筋の埋め込み術」
椎間板を焼いてヘルニアを引っ込める「経皮的レーザー椎間板減圧術」
「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」
単に「進んだ医療」ではない「先進医療」

暮らしに役立つ健康情報を
調べたいときは

からだケアナビ

先進医療の技術内容や医療施設の検索は

先進医療ナビ

医学・医療最前線(コラム)

キーワード

▲ PAGE TOP