加齢に伴う老化、喫煙、カフェイン、アルコールの過剰摂取などは、骨粗鬆症を発症し骨折の危険性が大きくなります。特に閉経期以降の女性はリスクが大きくなります。骨折が原因で日常生活活動の低下、さらには寝たきりになってしまうことが大きな問題となっています。「自分の足で立って歩くことは明るい人生から輝きを消さないためにも重要です」と帝京大学医学部整形外科学講座主任教授の河野博隆先生は語っています。
ポイント
今回お話を伺った帝京大学医学部整形外科学講座主任教授 河野博隆先生
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)はとても身近な病気です。
赤ん坊は立ち上がろうとがんばり、立つことができるようになると懸命に歩こうとします。立って、歩くことは人間が生まれて身に着ける最も基本的な動作の1つです。
「骨粗鬆症になると骨がスカスカになってもろくなり骨折しやすくなります。特に高齢者の場合、一回骨折すると再骨折しやすくなることが知られています。寝たきりを余儀なくされるケースも多く、人生において最も基本的な自分の意志にしたがって立って歩く力が失われることになります」と帝京大学医学部整形外科学主任教授の河野先生は語ります。「骨粗鬆症の医療目的は骨折の予防と治療であり、一度起こってしまった後の再骨折をさせないことがとても大切です」
日本国内で骨粗鬆症の患者さんは、男性300万人、女性980万人で合計1280万人に上ると推定されます。米国国立衛生研究所は骨粗鬆症を「骨強度が低下して、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義しています。骨強度は骨密度と骨質の2つの要素で決められます。特に骨密度は「骨強度の70%を決める」といわれるほど、重要です。
世界保健機関(WHO)は2004年に12個の骨折危険因子からなる骨折リスク評価を提唱しています。
その骨折危険因子とは
1) 高齢であること
2) 女性であること
3) 体重が重い
4) 身長の低下
5) 骨折の経験がある
6) 両親に大腿骨(太もも部分の骨)近位部(体の側)骨折の経験がある
7) 現在喫煙している
8) ステロイド剤を使用している
9) 関節リウマチにかかっている
10) 続発性骨粗鬆症(ステロイドの使用に伴う骨粗鬆症など)がある
11) アルコールを多量に摂取する傾向にある
12) 大腿骨近位部位の骨密度が低い
の12点です。これらが該当する人は骨粗鬆症予備軍と言えます。
基本的には骨粗鬆症だけでは自覚症状がありません。背骨に相当する部位が変型(椎体骨折)した場合では腰背部に疼痛が表われ、脊柱変型や身長が若いときに比べ低くなったりします。しかし椎体骨折の3人に2人には症状がないと指摘されています。
一般的に診断する場合、「骨密度」を測定するとともに骨折の有無を確認します。骨密度が高くても、脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折が見られればそれだけで骨粗鬆症と診断され、治療が必要と判断されます。
骨粗鬆症の管理と治療の目的は骨折を予防し骨格の健康を保って、生活機能とQOL(生活の質)を維持することです。
「治療方法」には、
1) 食事療法
2) 運動療法
3) 薬物療法 の3つがあります。
河野先生は「一つひとつをばらばらに進めるのではなく、すべてをまとめて実践していく必要がある」と指摘しています。
食事ではカルシウム、ビタミンDを積極的に摂取します。一方でこれら栄養素の吸収を妨げるリン、食塩、カフェイン、アルコールを過剰に摂取しないように心がけます。
運動には骨密度低下を減速させる効果がありますが、無理をして転倒などをしては逆効果です。筋力が低下すると転倒しやすくなりますので、転倒のリスクがある運動を避けるとともに、危険がない形で筋力を維持・増強する運動を心がけます。
薬物療法には骨密度の低下を抑える働きがあります。70歳以上になると大腿骨の骨折が増加するために、この部位の骨折を抑制する「結合型エストロゲン」「アレンドロン酸」「リセドロン酸」「デノスマブ」を使います。
比較的若い世代には椎体骨折を減らす効果がある「結合型エストロゲン」、活性化ビタミンD3薬の「エルデカルシトール」を使います。また「アレンドロン酸」「リセドロン酸」「イバンドロン酸」「副甲状腺ホルモン薬」も使用します。
ステロイド剤は関節リウマチなどの炎症性疾患などの治療や予防に使われています。前述の危険因子の中の続発性骨粗鬆症の中に含まれるタイプです。注目すべきは医療行為が結果的に原因を作ってしまう骨粗鬆症です。
前立腺がんの治療では男性ホルモンの働きを弱める治療が行われます。また乳がんの治療では女性ホルモンの働きを止める治療が行われます。これらの治療は結果的に骨密度を低下させ、知らず知らずのうちに骨粗鬆症を進行させることになります。またがん治療では抗がん剤としてステロイド剤が用いられるほか、抗がん剤使用時に吐き気を止める目的でステロイド剤が使われますが、これも骨粗鬆症につながる可能性があります。
「本来ならばがん診療に携わる主治医が意識するべきだが、実態が把握されてから日が浅いことと生命予後に結びついているという認識も低いことが多い。患者さんは主治医とよく相談してほしい」と河野先生は指摘します。
骨密度が低下して骨粗鬆症と診断されると前述の食事療法や運動療法、薬物療法が行われています。骨折してしまうと整形外科医による手術や治療がほどこされ、さらにリハビリテーションの治療もおこなわれます。しかし、こうした一連の治療が終わると、十分な医療サポートが得られなくなり、再び骨折してしまうケースも少なくありません。高齢者の再骨折は寝たきり状態になる危険性がありますので何としても避けたいところです。そこで、治療を終えて自宅にもどった患者を継続してフォローする仕組みづくりが大学病院、あるいは地域単位で始まっています。
河野先生は「一度骨折した人は再び骨折する可能性も高いことが知られています。一方で食事や運動、薬物療法などの包括的なケアを受けた患者さんは骨折する割合が少なくなることがわかっています。骨折して退院した後も、医療機関とのつながりを保つようにすることが、自分で歩くことを維持するために最も重要なこと」と語っています。