※この技術は、2020年から保険適用になりました。
膵臓のインスリン分泌機能が何らかの理由により破壊されて発症する1型糖尿病。この病気にはインスリンを自己注射で補充するインスリン療法が欠かせませんが、自己注射は患者の負担が大きいだけでなく、インスリンの調節がうまくいかないと低血糖発作を生じ、重篤な状態に陥ることもあります。1型糖尿病の根治を目指す先進医療技術として注目される、膵島移植を紹介します。
膵島移植とは、心停止したドナーの膵臓から、インスリンを分泌するβ細胞を含む膵島細胞を分離し、移植する治療です。1型糖尿病の根治を目指した治療法としては、膵臓そのものを移植する膵臓移植がありますが、これには開腹手術が必要です。一方、膵島移植は点滴のような形で肝臓の近くの血管(門脈)に細胞を投与するだけ。移植そのものは局所麻酔下で短時間のうちに終了するため、移植を受ける患者の負担が低い治療法といえます。移植された膵島細胞は、肝臓の門脈付近に生着するといわれています。
膵島移植は、心停止したドナーから膵臓を摘出して保存。そこから膵島細胞だけを取り出し純化したものを、患者のお腹に差し込んだ細いカテーテルを通じて肝臓近くの門脈という血管に入れる (出典:厚生労働省)
実は、日本における膵島移植は2004年に開始され、日本膵・膵島移植研究会が中心となり、主に心停止ドナーの膵臓から分離した膵島細胞を用いて行われていました。しかし、膵島の分離に用いていた酵素の製造過程で、牛の脳抽出物が使用されていることが判明。BSE(牛海綿状脳症)感染の可能性が完全に否定できないことから、07年3月に中断されていました。
11年度春、この中断されていた心停止ドナーからの膵島移植が再開されます。福島県立医科大学臓器再生外科教授で日本膵・膵島移植研究会会長の後藤満一氏によれば、第3項先進医療技術の枠組みの中で臨床研究として実施する計画とのこと。対象は、重症低血糖発作を伴うインスリン依存性糖尿病患者とし、近く患者登録を開始する予定です。
膵島移植が再開されたのは、哺乳動物由来成分を使用しないで製造したコラーゲン分解酵素が入手可能となったためです。また、より高い効果を目指して、新たな免疫抑制剤の投与方法を導入する予定です。他者由来の膵島細胞が移植されると、患者は異物として細胞を排除しようとします。この免疫反応を抑え、移植した細胞が患者に生着し、インスリン分泌を行えるよう、移植を受けた患者の免疫反応を人工的に抑える必要があるのです。海外で行われた同様の試験では、5年後の膵島細胞生着率が約5割という好成績を収めているそうです。
一般に、患者の体重1kg当たり、生着した膵島細胞が5000個以上あれば治療効果があり、1万個以上あればインスリンの自己注射を中止できる(インスリン離脱)と考えられています。この新しい治療により、長期の膵島細胞の生着と、患者のインスリン離脱が期待されます。
日本膵・膵島移植研究会会長を務める福島県立医科大学臓器再生外科の後藤満一教授(左)と、膵島移植研究を率いる研究会事務局の福島県立医大臓器再生外科の穴澤氏(右)
先進医療としての膵島移植は多施設共同臨床研究として行われ、同研究には福島県立医科大学附属病院をはじめ、東北大学病院、国立病院機構千葉東病院、京都大学医学部附属病院、大阪大学医学部附属病院、福岡大学病院の6施設が参加します。各施設で心停止ドナーの膵臓から膵島を分離し、膵島細胞の収量などの移植条件を満たすことを確認したうえで、患者に移植する計画です。
臨床研究は20人の患者が対象となります。移植可能回数は1人につき最高3回までとし、治療後2年間の経過観察を行いますが、1回の膵島移植でインスリン離脱が可能となった場合には、それ以上の移植は行わないことになっています。
費用は、厳密な管理下のもとで膵臓から膵島を分離するだけでも200万〜250万円が必要となり、移植後の免疫抑制剤などの薬剤費も含めた膵島移植費用は、1人に3回移植する場合、2年間で約1300万円となります。ただし、同臨床研究の枠組みで治療を受ける場合は、膵島移植の費用は文部科学省の「橋渡し研究支援プログラム」から助成された研究費でまかなわれるため、患者の自己負担額は多くても数十万円程度に留まるそうです。