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群馬大学
重粒子線医学研究センター(1)

総合病院として初めて
重粒子線治療を開始

( 2010/09/30 )

※2016年、2018年に、骨軟部腫瘍(根治的切除非適応の骨軟部腫瘍)、頭頸部がん(口腔および咽喉頭の扁平上皮がんを除く)、前立腺がん(限局性および局所進行性前立腺がん(転移のないもの))については、保険適用になりました。

 X線を用いた通常の放射線で治療できないがんに対しても効果が期待されている「重粒子線治療」。今年6月に総合病院として初めて、群馬大学医学部附属病院(以下群馬大病院)が先進医療の実施施設として認定を受けました。総合病院ならではの特徴を、今月と来月の2回にわたりレポートします。

「群馬大病院の場合、前立腺がんでは、すべての治療法の選択肢を提示できる」と大野准教授

「群馬大病院の場合、前立腺がんでは、すべての治療法の選択肢を提示できる」と大野准教授

 「今年の6月に先進医療の認定を受け、これまでに先進医療として20〜30人の患者さんを治療した」と語るのは、群馬大学重粒子線医学研究センターの大野達也准教授です。同センターでは、これまでに前立腺がん、肺がん、頭頸部がんの治療を行っており、今年度中に、さらに肝がん、術後再発の直腸がん、骨軟部腫瘍にも治療の対象を広げる計画です。

 ただし、大野准教授は、「重粒子線治療は何でも治せる夢の治療法ではないことを理解いただきたい」と強調します。長所もあれば短所もある治療法であり、重粒子線治療が最良の治療法といえる患者さんもいれば、ほかの治療法が最良な患者さんも存在するというのです。

 では、重粒子線治療の長所とは、何でしょう。


 

通常の放射線治療では効果が期待できなかった局部性のがんなどに有効

 重粒子線は、がんの位置に合わせて最も効果が高くなるように治療することができます。一方、通常の放射線治療に使われるX線では、深さとともに線量は相対的に減っていきます。複数の方向から体の深い位置にあるがんを狙う場合、重粒子線は標的となるがんにより集中して照射することができるというわけです。このように集中性に優れた治療が可能ということは、がんの周りの健康な臓器への影響が少ないことを意味し、副作用の低減が期待されます。例えば、脳や神経、腸管などを避けて治療することにより、体への負担を軽くすることができるのです。ただし、高精度化された放射線治療(例えば、強度変調放射線治療:IMRT)でも、線量を集中させることが可能になってきており、患者さんによっては、IMRTで十分に副作用を抑えて治療することが可能な場合もあります。

 さらに重粒子線は、X線に比べて細胞を殺す能力が高いことが分かっています。これまでX線が効きにくいとされていた肉腫や腺がん、大きながんなどに対しても重粒子の治療効果が期待されています。

重粒子線治療を受けている様子重粒子線治療を受けている様子

重粒子線治療は集中性に優れているため、健康な臓器への影響が少なく副作用の低減が期待される

 一方、重粒子線治療が適応とならないがんも存在します。重粒子線治療では強力なエネルギーを照射するため、がんに巻き込まれている、もしくは背中合わせになった部分は、重粒子線といえども健康な臓器にも照射されてしまい、そのことが原因で治療の適応とならない場合があります。また、初発の胃がんや大腸がんなど、臓器が動いて標的が定まらないようながんも治療することはできません。これらのがんに対しては、内視鏡治療や手術が治療法として確立されています。

 血液がんや全身に転移が広がっている転移がんに対しても、重粒子線治療の治療効果は期待できません。全身に広がっているがんに対しては、全身的に効果が期待できる薬物療法が選択されています。

 

重粒子線以外にも治療のオプションを提示できる

今年6月に先進医療の認定を受けた群馬大学重粒子線医学研究センター

今年6月に先進医療の認定を受けた群馬大学重粒子線医学研究センター

 「例えば群馬大病院の場合、前立腺がんでは、すべての治療法の選択肢を提示できる」と大野准教授は説明します。

 前立腺がんの治療法は大きく分けて、手術、放射線治療、内分泌療法、待機療法の4種類があり、病状に応じて治療を併用することもあります。また、放射線治療の中にも、前立腺の中に放射性同位元素を埋め込んで、がんを体の中から殺すという小線源治療、放射線の線量に強弱をつけ、腫瘍の形に適した放射線治療が可能な強度変調放射線治療(IMRT)も、群馬大病院では実施しているということです。



 たくさんの選択肢の中から、主な治療法を手術にするのか、薬物療法にするのか、それとも放射線治療にするのかを患者さんの病状などから決めることができる。さらに、放射線療法を選択した場合には、重粒子線治療を含め、異なる特徴を持つ放射線治療の中から、それぞれの患者さんに最も適した治療法を選択することができる。加えて、院内の診療科と連携することにより、放射線治療とほかの治療法(手術や薬物療法など)を併用して、効率よく、効果的に患者さんを治療することができる――これが群馬大病院ならではの特徴といえそうです。

 しかも、「総合病院であるため、がん以外にも病気を抱える患者さんに対応しやすい」と大野准教授。「例えば、人工透析が必要な患者さんでも、透析を続けながらがんの治療を行うことができる」といいます。
 
 患者さんにとっては、1カ所の医療機関ですべての治療を受けられるのはメリットの1つといえそうです。

 次回は、群馬大病院における重粒子線治療の実際をレポートします。

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