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東京大学医学部附属病院(1)

安全かつ適切な肝切除術を行うためのシミュレーション

( 2011/12/21 )

※この技術は、2012年から保険適用になりました。

 肝がん(肝細胞がん)の治療で肝切除術を行う場合、どこを、どのくらい切除するかということが、術後の予後に大きく影響します。「肝切除手術における画像支援ナビゲーション」は、コンピュータシミュレーションによって切除する肝臓の量(肝容積)を正確に計測して、より安全で根治性の高い肝臓の切除を可能にします。この技術は、2008年1月に先進医療に承認されました。

切除肝容積の計測と、門脈支配域の「系統的切除」が重要

 肝がんは、肝臓から発生した「原発性肝がん」と、ほかの臓器のがんが肝臓に転移した「転移性肝がん」に分けられます。原発性肝がんの9割以上が肝臓の細胞ががん化した「肝細胞がん」です。したがって日本で肝がんといえば、通常は肝細胞がんを指します。肝がんの主な原因は肝炎ウイルスの持続感染で、日本人の場合、約75%がC型肝炎ウイルスに、約15%がB型肝炎ウイルスの感染に起因すると言われています。

 最も確実に肝がんを取り除くことができる治療法が、肝切除術です。肝臓は肝機能が良好の場合、全体の70%を切除しても残りの30%があれば、元の大きさまで再生します。一方で、肝がんは慢性肝炎や肝硬変などの肝臓疾患を背景として発症しやすく、肝がん患者は肝機能が低下している場合が多いため、切除できる大きさ(肝容積)は制限されます。大きく切りすぎると残りの肝臓で生命を維持できず、肝不全になる危険があるからです。そのため切除できる肝容積、すなわち残りの肝容積の予測が重要になります。どのくらい切除するかは、肝機能ごとに定められた切除許容範囲の基準をもとに決定します。

 肝臓はひとかたまりの臓器ですが、肝臓内を走る血管の分布によっていくつかの区域に分けられます。肝臓は、大きく左葉(左肝)と右葉(右肝)から成りますが、左肝と右肝のそれぞれを2つに分けて4つの区域や、さらに細かく8つの亜区域(小さな領域)に分類できます。肝機能が低下していて大きく切除できない場合は、安全のために小さな8つの亜区域の1つを切除する「亜区域切除」や、それよりも小さい範囲を切除する術式が選択されます。

 肝細胞がんに門脈の枝に沿って広がっていくという特徴があります。この特徴を考慮して、がんにつながる門脈の血流を見定めて切除範囲を決める方法が、「系統的切除」です。門脈は胃や腸などの消化器や脾臓から肝臓に血液を送る血管です。門脈が支配する領域を丸ごと切除することで、主な腫瘍だけでなく、検査画像や肉眼で見えない微小ながんも取り除くことが可能です。系統的切除で術後の予後が延びるというエビデンスもあります。

2次元画像から3次元の“仮想肝”をつくる

図1●3次元画像の作成


図1●3次元画像の作成

まず、コンピュータ断層撮影(CTまたはMRI)の画像データから必要なパーツを抽出する。次に、肝実質(肝臓そのもの)、門脈、肝静脈(肝臓から出て下大静脈に至る静脈)、腫瘍の4つのパーツを合成すると、3次元の立体画像である“仮想肝”が構築される

 肝がんの手術は、がんに冒されていない部分をできるだけ残し、なおかつがんを取り残さないように系統的切除を行うのが理想です。東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)では、より安全で正確な肝切除術をサポートするコンピュータソフトウエアを利用しています。それが、今回紹介する「肝切除手術における画像支援ナビゲーション」です。

 画像支援ナビゲーションの機能の1つは、2次元のCT画像の3次元化です(図1)。3次元化すると、血管が樹枝状に細かく張り巡らされている肝臓のどこに腫瘍があって、どうなっているのか、腫瘍と血管の位置関係を立体的に把握することができます。腫瘍が多数あって血管との位置関係を把握することが難しいケースでも、肝臓を下からのぞき込むなどして自由な角度で観察することができます。腫瘍の位置が腹側か背中側か一目瞭然で、切除する部位を特定することができます。




図2●系統的切除の“見える化”


図2●系統的切除の“見える化”

コンピュータの画面上に作られた仮想肝で血管ごとの支配領域を色分けし、その情報をCT画像に反映させることができる。腫瘍が3本の門脈枝の支配領域の境界にまたがっていることが分かる(右)。この症例では、3つの支配領域の系統的切除が理想である(S1〜S8は肝臓を8つに区切った“肝臓の番地”)


 もう1つの機能は、血管の支配領域の算出です。肝臓は、木の「枝」と「葉」の関係のように、門脈(枝)が栄養を供給する領域(葉)が決まっています。画像支援ナビゲーションを使えば、どの血管が、肝臓のどの領域に栄養を供給しているか分かります。それをコンピュータ上で領域別に色分けすれば、見えない境界を“見える化”できます。また、その情報はCT画像に反映することもできます(図2)。


医師同士で立体イメージを共有


國土典宏教授(左)と佐藤彰一助教(右)

日本外科学会の理事を務める東京大学大学院医学系研究科肝胆膵外科学・人工臓器移植外科学分野の國土典宏教授(左)と画像診断ナビゲーションを推進する東京大学医学部附属病院胆膵外科・人工臓器移植外科の佐藤彰一助教(右)

 肝疾患の治療において肝臓の立体構造の把握は不可欠です。肝臓の立体イメージを手術にかかわる医師間で容易に共有できる点も、画像支援ナビゲーションの大きなメリットです。従来は2次元のCT画像を見て、それぞれが頭の中で肝臓の立体イメージをつくっていましたが、画像支援ナビゲーションを利用すれば同じ3次元画像をもとに医師同士で議論することができます。東京大学大学院医学系研究科肝胆膵外科学・人工臓器移植外科学分野の國土典宏教授(写真)は、「より具体的な手術計画を立てられるようになった」と言います。



 2次元のCT画像を3次元化すると、「CT画像の印象よりも腫瘍の位置が上だった」などの “ずれ”を事前に修正することができます。それは手術して見れば分かることですが、手術中に「予想と違う」ということは極力避けたいものです。術前に分かっていれば、それに対して準備ができ、より安全な手術を行うことができます。

 第2回は、引き続き、画像支援ナビゲーションの有用性について説明します。

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