子宮腺筋症病巣除去術
東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座
( 2024/12/27 )
30代後半~40代の女性に多い子宮腺筋症。強い月経痛や月経量の増加(過多月経)などの症状を引き起こすほか、不妊や流産、早産の原因になることもある病気です。薬を使っても症状が改善しない場合、子宮摘出を検討することがありますが、妊娠を希望する患者さんが子宮を温存したまま治療できる方法が求められていました。このような背景から、子宮腺筋症の病巣だけを取り除く「子宮腺筋症病巣除去術」が、2024年4月から先進医療Aとして実施されています。どのような治療なのか、東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座の廣田泰教授に伺いました。
ポイント
子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が何らかの理由で子宮筋層(子宮の筋肉の層)の中にできる病気で、30代後半~40代の女性に多く見られます。原因はよく分かっていませんが、エストロゲンという女性ホルモンの影響を受けて進行するため、月経がある限りは悪化し、閉経すると症状が改善します。
子宮腺筋症にかかると、強い月経痛や過多月経、月経時以外の腹痛や腰痛、貧血などの症状が出て、日常生活に支障が出ることもあります。また、子宮腺筋症は不妊の原因になる可能性があるほか、妊娠できたとしても流産や早産、妊娠高血圧症候群などが生じやすいと考えられています。
子宮腺筋症の治療には、大きく分けて薬物療法と外科手術があります。薬物療法の場合は、エストロゲンの分泌を抑える薬を使ったホルモン療法が中心となります。しかし、薬では子宮腺筋症に伴う症状を抑えることはできても、子宮腺筋症自体を治すことはできません。また、ホルモン療法では避妊効果がある薬や排卵を抑える薬を使用するため、すぐに妊娠したいと考えている患者さんには行うことができません。
薬で症状が十分に改善しない場合は手術を検討しますが、現在一般的に行われている子宮腺筋症の手術は、子宮摘出術です。子宮を摘出すれば子宮腺筋症は根治しますが、将来妊娠を望んでいるなどの理由から、子宮摘出を望まない患者さんが多くいらっしゃいます。近年では、女性が出産する年齢が高くなり、妊娠を望むタイミングで子宮腺筋症が見つかるケースも増えていることから、子宮を温存したまま子宮腺筋症を治療できる方法が求められていました。このようなニーズに対応する治療法が「子宮腺筋症病巣除去術」です。
子宮腺筋症病巣除去術は、子宮腺筋症の病巣部分のみを取り除く手術で、2024年4月から先進医療Aとして実施されています。もともと子宮腺筋症病巣除去術は、2005~2023年に「高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術」という名称で、先進医療として実施されていました。2024年4月からは、高周波切除器に限らず、電子メスなど他の手術器具を使った手術も含める形で、改めて先進医療に認定されています。
今回の先進医療は、将来妊娠を考えている子宮腺筋症の患者さんのうち、生活に支障が出るような強い月経痛があるものの、薬物療法で症状が十分に改善しなかった人や、薬物療法が実施できない人が対象となっています。子宮腺筋症の病巣は、子宮筋層の深いところに入り込んでいるため、電気メスや高周波切除器などを使って病巣部分をしっかり取り除いた上で、周辺の組織を縫い合わせて子宮を修復します。東京大学医学部附属病院の場合、手術後の入院期間は約1週間です。
子宮腺筋症病巣除去術の最大のメリットは、子宮を温存できて妊娠の可能性を残せることですが、これ以外にもさまざまなメリットがあることが分かってきています。例えば、手術後は多くの患者さんで月経痛が軽減し、月経量が減少しています。また、流産や妊娠高血圧症候群が減るというデータもあります。
ただし、子宮の回復のために、妊娠は手術後一定期間(東京大学医学部附属病院では6カ月~1年ほど)待つ必要があります。また、子宮腺筋症病巣除去術を受けた後に妊娠した場合、妊娠中の子宮破裂や、胎盤が子宮の内側に入り込んで出産後にはがれない「癒着胎盤」のリスクが高まるといわれているため、ハイリスクの患者さんにも対応できる高次医療機関で、帝王切開で出産することが推奨されます。「子宮腺筋症病巣除去術を選択した患者さんは、手術によって月経のつらい症状が軽くなることで、日常生活の質が改善します。一方、妊娠を望む場合には、上記のようなリスクもありますので、メリットとデメリットについて十分な情報を提供し、その上で子宮腺筋症病巣除去術を行うかどうか、じっくり話し合いながら検討してもらうようにしています」(廣田先生)。
東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 廣田泰教授
子宮腺筋症は病巣と正常な子宮筋層との境界線がはっきりせず、筋層に複雑に入り込んでいることが多いこともあり、どこまでの範囲をどのような方法で除去するのが最善なのか、その後の症状や妊娠可能性、妊娠・出産時のリスクはどのように変わるのかなど、まだ十分に解明されていない部分があるのも事実です。そのため、日本産科婦人科学会では、今回の先進医療と並行して、手術後の様子を長期的に追跡するためのデータ登録制度も準備しています。データが蓄積されれば、将来的にはさらに有効性が高く、リスクの少ない医療提供につながることが期待されます。
子宮腺筋症病巣除去術は、東京大学医学部附属病院を含む全国6施設で先進医療として実施されています。東京大学医学部附属病院の場合、先進医療に該当する手術費用は約35万円で全額自己負担となり、これ以外の費用(外来受診や入院中に必要な処置など)には公的医療保険が適用されます。
今回の先進医療によって有効性と安全性が確認できれば、保険適用を目指すことになります。妊娠を希望する患者さんにとって、子宮を温存できる選択肢があることは喜ばしいことです。今後、可能な限りリスクの少ない手術方法が確立され、子宮腺筋症病巣除去術が広がれば、さらに多くの患者さんがつらい症状から解放されるとともに、子宮を残すという希望をかなえられるようになることが期待されます。