医学・医療最前線

単に「進んだ医療」ではない「先進医療」 ( 2009/10/1 )

 「先進国」「先進技術」の例でも分かるように、「先進○○」という呼び方は「進んでいる○○」「他の比較対象よりも先んじている○○」という意味で、一般名詞として使われます。「先進医療」に関しても、日常会話などで「通常の医療より進んだ医療」「最先端技術を使った医療」という、一般的な意味で使われることがあります。しかし先進医療は同時に、厚生労働省が一定の基準をもって、制度として承認した医療の名称、つまり固有名詞でもあるのです。

 マスコミなどでもまだ、両方の意味で使われているようです。しかしもし私たちが、患者の立場で先進医療のお世話になるときは、公的な医療保険の扱いなどの点で事情が違ってくるので、その違いをきちんと把握しておく必要があるでしょう。

 以下の文では、制度として承認された先進医療について説明します。

保険適用を検討している段階の医療

 先進医療は、大学や研究機関、病院などで開発された医療技術のなかで、厚生労働省が「ある程度確立した医療」として承認したもの、つまり「一定の治療効果が期待でき、安全性も確保されている」というお墨付きを与えられた医療のことです。この点で、いくらこれまでにない先端的な医学技術でも、まだ効果や安全性が不確定な実験段階の行為とは異なります。

 後で詳しく述べますが、この先進医療の先進的な医療行為の部分に対しては、公的な医療保険は適用されません。しかし同時に、これは厚労省が、今後公的医療保険を適用させるかどうかを検討している段階の医療でもあります。

 先進医療は「第2項先進医療」と「第3項先進医療」に分類され、第3項先進医療は「高度医療」と呼ばれることもあります。違いは、第2項の医療で使われる医薬品や医療機器はすべて薬事法で承認・認証・適用されているのに対して、第3項では、そうでない医薬品や医療機器も含まれています。逆に言うと第3項で使われる未承認の医薬品や医療機器は、先進医療での使用実績を重ねて、薬事法での承認などを目指すことになります。

 2009年9月1日時点で、第2項先進医療は94件、第3項先進医療は18件となっています。しかし先進医療は固定的なものではありません。新たな申請に対する審査が行われ、申請された医療行為が先進医療としての要件を満たせば追加されます。また2年に1度の見直しが行われ、十分な実績を積んだことなどを評価され、保険診療に組み込まれれば、その時点で先進医療ではなくなります。逆に「治療の実施例がほとんどない」などの理由から、先進医療としての承認を取り消されるものもあります。08年に行われた見直しでは、20件が保険診療となり、15件が承認取り消しとなっています。

※「第2項先進医療」は「先進医療A」、「第3項先進医療」は「先進医療B」となっています。(2020年10月20日現在)
常に見直しが行われているので、最新の情報は厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。

先進医療の各技術の概要

先進医療を実施している医療機関の一覧

保険適用と保険外を併用する「混合診療」の一種

 先述したように、先進医療では先進的な医療行為の部分に対しては、公的な医療保険は適用されません。しかし先進医療といえども、そうした先進的な部分のみで医療行為が完結するわけではありません。例えば、このサイトのルポ「先進医療の現場から」で取り上げた「がんの粒子線治療」の場合、ハイテク機器を使って治療用の粒子線を作り、それをがん細胞に照射する、という先進的な医療行為に伴い「がんの検査」「入院」など、通常の治療同様の医療行為があります。

 先進医療の特徴の1つは、それに伴う「診察」「検査」「投薬」「入院」などの通常の医療行為には、公的な医療保険が適用されるということです。

 こうしたシステムは、実は例外的なことなのです。先進医療のように、自己負担となる「保険外診療(自費診療)」と保険が適用される「保険診療」を併用して行う医療行為を「混合診療」と言いますが、日本では様々な理由から、原則として「混合診療」への保険適用は認められていません(図参照)。

 そのため通常の場合、治療のほとんどの部分が保険診療の範囲で行われたとしても、一部で未承認の薬や医療機器を使うなどの保険外診療が含まれれば、全体の医療費が自己負担となってしまいます。

医療費負担の仕組み
医療費負担の仕組み

「高度先進医療」が制度改正で「先進医療」に

 先進医療の元となる制度が発足したのは1984年のことです(表参照)。「健康保険法」の改正を機に“例外的な混合診療”である「特定療養費制度」が導入され、「高度先進医療」「差額ベッド」「前歯の選択材料差額」の3種類で、保険診療と保険外診療の併用が認められるようになりました。

 この特定療養費制度は、その後この3種類以外の項目が追加されていき、「新しい技術」と「患者の希望」が混在するなど、本来の目的が分かりにくくなったため、2006年10月から「保険外併用療養費制度」という名称に変わり、「評価療養」と「選定療養」という2分野に整理されました。このうち評価医療が、将来的に保険医療に組み込まれる可能性がある医療行為で、そのうちの1つが、高度先進医療の流れをくむ、現在の先進医療というわけです。

 かつての高度先進医療は承認の条件が厳しく、医療技術ごとに個別に医療機関の審査が行われ、承認まで通常1年半ぐらいかかっていました。対象となった医療機関は06年6月30日時点で113施設で、多くが大学病院でした。

 これに対して先進医療では、医療機関が対象となる医療技術を厚生労働省に申請したら、同省は必要となる施設の要件を設定。審査期間は原則3カ月以内で、その医療技術が先進医療として承認された後は、別の医療機関でも要件を満たすことを示す文書を提出すれば、同様に先進医療として実施することができます。09年9月1日時点で、先進医療の対象となる医療機関は、のべ1105施設に上ります。

 「原則として混合診療への保険適用を認めない」という方針に対しては、「診療の質の維持」「医療費への公費(税金)負担の抑制」「医療分野の市場拡大」などの観点から様々な意見が出され、現在も議論が続いています。そんななか先進医療は、患者の立場に立った現実的な制度として、定着したものと言えるでしょう。

先進医療をめぐる制度の変遷
先進医療をめぐる制度の変遷
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